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エンスー

聞き捨てならないニュースが耳を掠めた。かつて昭和の日本を席巻した名車、スバル360がワゴンになって新登場するというのだ。血眼で画像を検索するとコレ↑なんて可愛いの!!昭和の360も可愛いが2025年の新型も負けず劣らず可愛い。欲しいな〜コレ。ホントに発売されるのかな。宝クジ当てないとな。もしくは有馬記念にぶっこむか…。

発売日はいつだろう。どんなCMになるのか。入手困難(自分のせいで)なのにワクワクする。わたしは昔から丸目の車が好きで、このしゃべりそうな感じがたまらない。昭和のスバル360にも憧れたが、1960年代のパブリカと出会ってほぼ衝動買いをした。当時、自分と同い年の車に乗っていたわけだ。パブリカはネズミ色としか言えない濃いグレーで、ちょっとカエルっぽい顔をしてる。スバル360やパブリカ以前は車といえば働く車か高級車ばかりだった。それがサラリーマンも車が持てる時代となり、日本の車業界が急成長する。パブリカはパブリック・カー、つまり「庶民の車」という意味だ。価格がドルだとちょうど1000ドルだったので「1000ドルカー、パブリカ」なんてCMをやっていたらしい。

いざパブリカが家にくると、いきなりお母さんに怒られた。「近所のジュンちゃんは手頃な軽自動車買ったのに、なんでアンタはバカみたいなもん買ってくるの!」おっしゃる通りで、燃費から何からすべてのコスパが悪い。わたしはもとより骨董趣味で、昭和のゆで卵器とか祟りがありそうな鏡とかヘンなものを買ってきては母の逆鱗に触れていた。でも仕方ない。他の車は欲しくなかったのだ。

プンプン怒っている母を尻目に試運転してみる。コラムシフトにはすぐ慣れたが、サイドブレーキがサイドにないことに焦った。灰皿の横についてるのをギィィィ〜と引っ張るレバー式なのだが、何回か間違えて灰皿をぶちまけた。ヒーターらしきツマミを引くと黒い煤のようなものがでた。暖房はあきらめよう。もちろん冷房も効かない。三角窓という小さな窓がついているが、何の役にも立たない。石川町のエジソン商会で買った筒形のスピーカーは、いかにも昭和っぽいチャチな音で
いい雰囲気を醸してくれた。

私のように古い車を愛する人のことを「エンスー」と言うらしい。もともとは「熱狂者」という意味らしいが、いつの間にか車が対象になった。いまでも古いサニトラやワーゲン、ホンダライフなんかが走っていると嬉しくなる。うちの周辺は車のレストア屋さんがあるので、見事な仕上がりのキャデラックやダッジを見ることもある。眼福だ。

薬を飲むようになってから、自分で運転することはなくなった。それでも車には興味があって「おぎやはぎの愛車遍歴」は見ているし、好きな車はたくさんある。やはり昔の車が好きだ。財力があれば新しいエンジンに積み替えて乗りたい…という願望をまるっと叶えてるのがこの新型スバル360ではあるまいか。レトロな外見に最新の機能を載せて、なんとも見事じゃありませんか。

パブリカとの別れの日は突然…いや突然でもないか、案の定数年後にやってきた。絶好調の時は下の道だけで福島まで行った。湘南、箱根、伊豆あたりは毎週のように出かけた。時々止まったけど。だましだましで走らせた。
ところがある日、銭湯の帰り、エンジンをかけたがウンともスンとも言わない。「死」の一文字が頭をよぎった。
物凄く寒い日で、ついには雪までちらつきはじめた。私は電話ボックスに駆け込み、手頃な軽を買ったジュンちゃんに迎えを頼んだ。ジュンちゃんはそれからしばらくしてまあまあお金持ちそうな人と結婚をした。私はまた母に怒られ、自分はいつになったらしっかりするのかと思ったが今だにしていない。お母さん、ごめんなさい。

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