不思議な男
※ちょっこしネタ漏れします。
ピエール瀧主演の「水平線」を観た。
監督の小林且弥とは私の世界一怖い映画である「凶悪」で出会ったというのでどんだけ怖い映画かと思ったがそんなことはなかった。
舞台は震災後の福島。散骨を請け負って暮らす男が瀧である。黙々と骨を砕く背中、スナックでふざけるしょうもない酔っぱらい、一人娘とのやりとり…どれも自然で単なるオジサンである。「鬼の骨格」と伊集院光に言わしめるほどいかつい貌と身体なのにユーモラスで哀愁がある。
「凶悪」ではドやくざの役なのでひたすら怖かったが、私的にはヒョロッとそこにいるリリー・フランキーのほうが怖かった。得体の知れないものは怖い。いやでもやっぱり終盤の瀧はモーレツに怖かったけど。裁判のシーン…。
「木更津キャッツアイ」「あまちゃん」「全裸監督」「サンクチュアリ」等、役者としての瀧の活躍は幅広い。「いだてん」では途中で降板することとなり非常に残念だったが、そして湾岸署前で謝罪した時のヘンな七三分けはちょっと面白い…と思ってしまったが、事はかなり重大だったはずである。が、あれから約五年が経ち、だいぶ以前の活躍に近づいているというのは、やはり彼の役者としての希少性があるのではないか。
「電気グルーヴ」というホームは復帰への道筋となったと思う。相棒の卓球は全面的に瀧をサポートし、レーベルとも闘った。瀧に対する失望を感じるファンも少なかったのではないか。少なくとも私は、彼に「まとも」的なことは期待していなかったので特にショックはなかった。ただ出演作が放送されるのかとか、楽曲はどうなるのかとかを心配していた。楽曲は瀧はだいたいノータッチなので関係ないんだけどね。
そういえば今年のはじめ、瀧はMXテレビの「バラ色ダンディ」にでていた。その時も何事もなかったように場に馴染んでいた。適当に喋ったりもするが、内容よりも間、座持ちのいい奴という感じ。「ただそこにいる」ということに本人の疑問が感じられない。
卓球が瀧と出会った頃、瀧は卓球が所持するテクノのレコードを目当てに毎日家に来たそうだ。「来た」というより「いる」。そういうタイプの人は稀にいる。なぜだか気にならない。魅力とも思えないような不思議な魅力。
もし瀧が親戚のオジサンだったら「また来たの〜?」と嫌がりながら玉子焼きのひとつでも出してやって一緒に呑むことだろう。それがある日パタリと来なくなったらやけに寂しい。いかつい座敷童がいなくなったような。
その人でないと埋まらない部分。
その人でなければハマらない役。
そういう魅力を持った人は強い。