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倫敦1988-1989〈3〉

宴の翌朝…というか翌昼。
起き出してきたMちゃんが「観光でもする?」と絶対的に行く気のない濁った目で聞く。わたしもノシイカみたいなぺらぺら具合で「無理…」と囁く。おそらくこの旅はロンドンブリッジやロンドンタワーやバッキンガム宮殿の
兵隊さんなどを見ることなく終わるのだろう。もともとたいして興味もないし、夜の部のほうが俄然面白いのでそれで良い。

そして夜が来ると私たちは人が変わったように元気になる。いそいそと派手な衣装に着替え、奇抜以外の何者でもないメイクを施す。ロンドンキャブを捕まえて今宵向かうは「wag」というナイトクラブ。丁度アシッドジャズ全盛の頃でバリハマりしていた私は踊る踊る。

wagはいろんな人種で溢れかえってすごい熱気だった。フロアーは木材で、階段も中二階も木造だったので床が抜けるんじゃないかと思うほど、皆カラダを揺らしていた。

気がつくと黒人の男の子と踊っていた。何かに取り憑かれたように体が勝手に動く。むこうがアフリカンダンスをすれば、私はカンフーダンスで応える。2人とも汗びっしょりになって無邪気に笑い合う。

明け方のコーヒーショップで彼がガーナ人だと知った。友達のMちゃんは「アフリカはいまエイズが多いらしいよ」と心配したけど、そういう仲になる予定はないし、よしんばチューぐらいしたってエイズはうつらないよ、と教えてあげる。別れ際に彼が「FREE NELSON MANDELA」という缶バッチを私のジャケットにつけてくれた。
マンデラ…バンドかな…?と思うほど当時の私は何も知らなかった。人種問題も他国の情況も。その時、自国の好景気が一過性のバブルであることにすら気付いていないバカな日本人の1人であったのだ。

            〈つづく〉

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