生粋のバンドロゴマニアそしてアートディレクターとして働くわたしが、バンドロゴを淡々と語る Vol.2
こんにちは。hiroponでございます。
わたしは事業会社でアートディレクターとして働いたり、個人でメタルバンドのアートワークやロゴの製作、イラストの製作などの創作活動を行っています。
昔からわたしはメタルなどエクストリームな音楽が大好きです。
絵を描くことが好きだった少年時代、そのような音楽を通してさまざまなバンドのロゴやアートワークなど作品のクリエイティブにも関心が広がり、わたしのデザイナーとしてのキャリアに繋がっていきました。
現在も音楽のクリエイティブを見て、所感を残したり、デザインの分析をすることが習慣になっています。
闇の青春時代から続くそれは、もはやマニアの域といってもよいでしょう。
Twitterでその内容を投稿したところ、とても好評いただいているので試しに過去の内容をnoteで記事としてまとめることにしたのです。今回は第2回目になります。
ロゴをただ見た目の美しさで語るだけではなく、アートディレクション視点で俯瞰する内容を書けたらと思っています。
ただつらつらと書いているだけなので、あくまでエッセイ的なものとして楽しんでいただけると幸いです。
もしそれはちがうよ!などあればコメントで教えてくださいね。
それでは参りましょう。
Suicide Silenceのロゴから考えるデスコアという名の「初期衝動」
さて今回はSuicide Silenceのロゴを見ていきたいと思います。2000年代から頭角を表し、「デスコア」という新たなメタルジャンルを確立したカリスマ的バンドでした。
そのカリスマたるヴォーカルMitch Luckerが2012年に交通事故により他界。そのニュースは当時学生でありデスコア世代直撃であった私にも大変なショックであったことを記憶しています。
デスメタル、そして空前のメタルコアブーム。そこからさらなる激しさを追い求めて誕生したデスコアというジャンル。
高音スクリームと低音デスボイスとのコントラストの強さ、メタルコアのブレイクダウンから派生したリズミカルなリフ、多弦を駆使した低いチューニング、難解な曲構成など、これまでのメタルにはなかった新しい音楽的技法を多く取り入れているのが特徴です。
ロゴも見てみると、筆で書き殴ったような荒々しい書体に、細かな飛沫がたくさん飛んだものになっています。
その斑点は血飛沫のように見え、さながら凄惨な暴力の現場のような雰囲気を醸し出します。
太い文字が詰まっており、さらに飛沫の細かいあしらいがぎゅうぎゅうに押し込まれてたその密度の高さは非常に目立つ強さがあります。
一目で「めっちゃ激しそう」というのが伝わりますね。
長方形のシルエットに収まっていることで、荒々しい中でも画面の収まりのよさがあることが特徴です。
ロゴの表現やそのサウンドでもわかるように「極端な過激さを追い求める」というのが2000年代の当時デスコア黎明期のキーワードではないかとhiroponは考えています。
その時の少し前は、空前のメタルコアブームでした。ヘヴィメタルとハードコアパンクのカルチャーが交わり、ニュースクールハードコア、メタルコア、ポストハードコアなど爆発的に派生ジャンルが誕生していました。
各ジャンルで若いバンドが大量に発生して活動をしていたのです。
各ジャンル、各バンドで様々な激しい音を持ち、それぞれの何かを表現していました。
デスコアはデスメタルの暴力的なモチーフや表現がベースにあります。
さらにメタルコアなど他ジャンルを飲み込む動きを経て、より激しく、より速く、過激で暴力的な表現を追求する方向で発展していったものだと思います。
「とにかく今までになかった激しさを」という若者のエネルギッシュさも相まっていたのではないでしょうか。
当時同じくデスコア黎明期として活動していたJob for a Cowboyのロゴも書体やあしらいがほぼ同じコンセプトであることがわかります。
当時のデスコアの「らしさ」のグラフィック表現としてこのようなスタイルが、トレンドになっていたのだと思います。
PVの舞台が屠殺場な雰囲気もデスコアあるあるでしたね。シリアルキラー的要素がわかりやすい暴力の象徴だったのでしょうか。
速さ・激しさなどとにかく過激さを追求する何か時代の初期衝動を黎明期のデスコアの音楽から感じることができます。
一時の音楽的トレンドとしてしまえばそれまでですが、その背景にある当時の若者たちの葛藤や発散、そこから求められた表現などを紐解くと、ロゴ1つにも様々な背景があることがわかります。
音楽性の変化とクリエイティブへの影響
さてここからは余談ですが、Mitch亡き後のSuicide SilenceはメロディックデスメタルAll Shall PerishのボーカルEddieを加入し活動を継続します。
加入後2017年にデスコアからNu-Metalへ音楽性の路線を大幅に切り替えたアルバムを発表し話題になりました。
ロゴも飛沫や荒々しさが無くなってちょっとだけシュッと変化しているのがわかります。
Nu-metalは激しさはあれど、デスメタルとは全く激しい表現の文脈が異なるものです。流血など暴力モチーフはアンマッチとなります。
音楽性の変化に伴い、ロゴも血飛沫などデスメタル的な暴力的な表現を排除した調整を行なったものと予想します。
このようにバンドでは音楽性の変化と共に、ロゴやグラフィックなどクリエイティブもリニューアルやマイナーチェンジが行われることがしばしばあります。
しかし、それは元々のバンドのコンセプトの自体も変化してしまう可能性があり、ファンとの認識のズレが生じてしまう危険があります。
自由なアート表現と商業との兼ね合いとなるものです。
この2017年のリニューアルも既存のファンからは大不評で、後にバンドは元のデスコア路線に戻ることにになります。
それに伴いロゴも前のものに戻ってしまいます。
バンドとしてはデスコアに囚われない自由な発展として、自身のルーツであろうNu-Metal路線への拡張を目指したものと予想しますが、変化が大きすぎてメタルファンの需要にズレが生じたようです。
イメージの刷新というのはブランディング観点からも非常に難易度が高いものであることを感じさせるエピソードです。
おわりに
さて今回は以上となります。
年代的にデスコアキッズだった筆者にはSuicide Silence、特にボーカルのMitchはカリスマであり、大変な憧れを持って聴いていました。
それゆえに死去のニュースは大学の実習室で見て大変なショックだったのを思い出します。(世代がバレてしまいます)
このカモメ折りたたみヘドバンがすごい好きでした。
その動画を貼って今回は終わりにしたいと思います。
それではまた。