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ウクライナ戦争の3年間を振り返る(長文)
もうじき、ウクライナ戦争勃発から3年が経過する。先日には、サウジアラビアでウクライナ戦争の停戦に向けた政府高官レベルの協議も行われた。
その協議というのも、米国とロシアの間だけでウクライナ側は招かれず、しかもトランプ大統領はとんでもない発言をしたのだという。
トランプによれば、ロシアとの戦争は「ウクライナが始めた」と言うのだ。正確には、CNN2/19の記事のなかで次のように述べたとされる。
トランプ氏は「私にはこの戦争を終わらせる力があると思うし、うまくいっていると思う。だが今日、『我々は招かれなかった』という声を聞いた。あなたたちは3年もそこにいる。3年後に終わらせるべきだった。始めるべきではなかった。取引をすることもできたはずだ」とウクライナについて誤った主張をした。
前々から、トランプとマスクはロシア側のスパイではないかと囁かれていた。実際にそうなのかもしれない、明らかにトランプはロシア側に与した発言をしているように見える。ロシアが始めた戦争に関して、ウクライナに対して「始めるべきではなかった」といっているからだ。
この戦争のこれまでの経過を、自分のおぼろげな記憶を頼りにざっくり振り返ることにしてみたい。したがって、かならずしも正確ではない記述もあると思うが了承ねがいたい。
まず、さかのぼること2014年。ウクライナ政府内部では、親ロシアと親欧米派との間での対立があり、最終的には親欧米派が勝利して、親ロシアの大統領ヤヌコーヴィチは大統領職を追い出された。これはマイダン革命と呼ばれる。
これをうけて、NATOの東方拡大に危機感を募らせたプーチンのロシアは、軍を派遣してクリミア半島を一方的に制圧した。つづくウクライナ東部でも、一方的に住民投票を行い、その結果をうけてロシア領に編入してしまった。これを第一次ウクライナ紛争とでも呼ぶのだろうか。これにより、ウクライナとロシアとの対立が決定的となった。
そして2022年2月、大部隊を国境沿いに集結させていたロシア軍は、突如ウクライナ領内への侵攻作戦を開始した。これが、いまもつづくウクライナ戦争のはじまりである。
❶まず狙うは、首都キーウ(キエフ)。空挺部隊による空からの強襲と、地上部隊からの侵攻作戦で、これに前後してミサイルによる軍事・民間施設の無差別攻撃を開始した。しかし、ロシア側の企図に反してこれはあっけなく失敗に終わった。軍事大国であるロシア、その作戦があまりに手際が悪く、兵士の練度も低いことが浮き彫りになった。
❷初戦で失敗し、いったん軍を引き上げたロシア側だが、今度は部隊を移動してウクライナ東部に集結させ、東部と南部から侵攻作戦を開始した。これに対して、ウクライナは西側諸国から武器・装備の供給をうけ、常備軍にくわえて予備役兵を動員して、ロシア側の猛攻を食い止めた。
❸ロシア軍の攻撃を食い止めたウクライナ軍は、今度は奪われた東部と南部の領土を奪還するべく、反転攻勢を開始した(2023年6月ころ)。その過程で、ロシア軍による住民への拷問、殺戮、暴行、略奪、子どもの連れ去りなどといった数々の非道な行為が明るみに出ることになった。
また、ウクライナ軍による反転攻勢も、当初の目論見とは裏腹に思うようには進まず、大きな犠牲を出した。ロシア軍は、ウクライナ軍の反撃を予期して周到な防御陣地と地雷原を構成していたためだ。ここにきて、戦線は膠着し、一進一退の状況が繰り広げられることになる。そのさまは第一次世界大戦における“塹壕戦”のようである。
また、ロシア軍は民間軍事会社“ワグネル”に大きく依存していたが、「プリゴジンの反乱」が失敗に終わると、ワグネルを強制解体してロシア軍に編入したようである。
❹膠着していた状況のなかで、変化の兆しが見られたのは2024年10月頃のことである。米国や韓国の情報機関が、北朝鮮部隊がロシア領内へ移動をはじめているというたしかな情報を入手したというのだ。北朝鮮軍がウクライナーロシア戦争に介入、参戦したのである(もっとも、北朝鮮政府は公式には否定)。
北朝鮮の精鋭とされる第11軍団、その軽歩兵を中核とする約一万人規模の部隊は、ロシア領内で通り一遍の訓練をうけた後にひそかにウクライナ東部に移動され、東部の激戦地域に投入されたのである(2024年12月ころ)。
北朝鮮軍は言語の問題もあり、ロシア軍との統一運用は難しいと考えられ、当初は建設や工兵などの役割を担うという予想されていた。しかし、実際には“突撃兵”として運用されたようで、ウクライナ軍のドローンに苦戦し、大きな犠牲を出すことになった。
❺2025年現在の時点で、北朝鮮軍は完全に撤退しているとされ、今後の作戦のために活用されると予想される。北朝鮮軍と交戦したウクライナ側の評価では、「北朝鮮の兵士は体力に優れ、ロシア兵よりも練度が高く、投降するよりも自決しようとした」とされる。また、ロシア兵よりも優れた火器を支給されてたという。
ロシア軍は以前から兵員不足に悩み、最近では車両不足も深刻で、馬匹さえ動員しているという記事も見かけた。ウクライナはウクライナで、幹部の汚職・不正や、脱走兵が多くなっているのだという。このように、双方ともにジリ貧で限界を迎えつつあるように見える。
以上のように、ウクライナ戦争についてざっくりと自分なりにおさらいをしてみた。
まさか21世紀にもなって、このレベルの戦争が実際に行われていることがいまだに信じられず、驚きである。戦争とは、中東とかアフリカのどこか遠い世界の話だと思っていたが、ヨーロッパに近い地域で戦争が起きているという衝撃である。
また、その戦争の残虐度もひどいものだし、厖大な量の砲弾を相手の陣地に撃ち込んだり、同時に防御のために塹壕を張り巡らせるというような、まるで第一次世界大戦のような果てしない消耗戦が行われているのである。その一方で、電子戦やサイバー戦、ドローンの活用といった現代的な要素が組み合わさったハイブリット戦争でもある。
とくに、「一人称視点の自爆ドローン」が大きな活躍を見せているようである。敵にミサイルを打ち込むよりも、はるかに安価に効率よく敵を殺傷できることから重宝されているようだ。それも、無線だと電子的に妨害をうけるから、光ファイバーケーブルを使用した有線ドローンも活用されはじめているのだという。
おそらく、ウクライナ・ロシアの双方で10万人以上はすでに亡くなっているのではないか。負傷者はその何倍もいることだろう。一般的に、「人類は時代の流れとともに進歩している」といわれてきたわけだが、いまだにこんな争いをつづけているのである。じつは人間は、自分たちが思っているほどにはたいして進歩していないと思う。
冒頭で述べたように、米国はロシアとウクライナの停戦に向けて動き始めているわけだが、肝心のウクライナ政府が蚊帳の外に置かれている、という批判も強い。
トランプからすれば、正義とか公正とかどうでもよくて、「さっさと戦争を終わらせて自分の手柄にしたい」というところなのだろう。あるいは、戦争終結のためには、核兵器をもつ大国ロシアを持ち上げて妥協するしかない、という現実的な理解と諦めもあるのかもしれない。
この痛ましい戦争は、いったいどのような顛末を迎えるのだろうか? ひきつづき、今後の動向を注視していきたいところだ。