介護事故を報告しなかった件。
先日、入居者の尻もちを目撃したのだけれども、報告をしなかった。立たせて、歩いてみて痛みの訴えなくADLの低下はない、トイレで服を脱ぎ外傷もない、その上で報告しないことにした。
当たり前のことだが、尻もちは“転倒”に分類されると思うので、本来であれば報告すべきでしょう。しかし、介護施設では日々いろんな問題が発生して、いちいちそれを問題に挙げて取り上げたくはない、という現場の心理というものがある。ただでさえ、現場の介護職は事故を起こさないように、日々神経をすり減らして働いているのである。その上に、余計に仕事を増やしたくはない。
一度事故として挙げるということは、事故報告書を書き、家族に連絡し、カンファレンスを開き、その対策を講じてそれを評価する…という煩雑で鬱陶しいプロセスが必要になる。この敷居の高さには問題があると思う。
介護事故を専門に扱う弁護士は、「些細なことでも報告しろ」と平気で口にするけど、それこそ現場のことを分かってないなぁと思います。
なんでもかんでも報告することには疑問を感じます。それよりむしろ、介護職が事故の重大性を鑑みてアセスメントし、必要があると判断したら報告すればいい、そう思います。たとえば、上記のような転倒・転落であれば、次のような判断の基準をわたしは持っています。
・頭をぶつけていないか?
・転倒直後から強い疼痛の訴えはないか、ADLは低下してないか?
・明らかに外傷がないか。
もし上記の内ひとつでも該当するなら、事故報告として挙げたほうが賢明だと思う。しかし、たんに尻もちをついてその後ADLに大きな変わりなく、痛みも直後はあるが骨折を疑わせるような疼痛もない、もちろん外傷もないということであれば、わざわざ事故として挙げる必要があるのか? そう思いますね。
もう一つは、事故報告の敷居を低くすることである。まず第一段階として、事故が起きたらとりあえず必要な連絡はして報告書は出す、しかし家族連絡はなし、カンファレンスもしない。もし、その事故が原因で医療処置が必要になったら、第二段階として、より詳細な報告書を書き、家族にも連絡し、カンファレンスも開く。このように、事故報告を二段構えにするのである。
このようにすれば、たぶん職員は今までよりも積極的に事故報告をするようになるでしょう。まぁそれは裏を返していえば、それまでは報告していなかった(隠蔽していた)ということになるだろうけどね。
大きな施設であれば、このための連絡や調整や事故防止の監督のために、介護事故を扱う専任の担当者(部署)を設置したほうがいい気がします。
最近のニュースで、千葉かどこかの老人ホームで、入居者が放置されていてろくに介護もなにもされていなかった、という報道があった。職員は一斉退職してしまい、入居者は基本的なケアさえ受けられなかったらしい。
これなんかは、利用者本位とばかりに押し付けて、現場ではたらく介護職員を蔑ろにしてきた末路がこうなったのでは? とわたしは呆れて思いますね。職員が一斉退職した、給与もろくに支払われていなかったらしい、という事実が、施設がいかに現場を軽視していたかよく表しているように思えます。
入居者の安全安楽な暮らしを守りつつ、いかに現場が不満を溜め込まないように環境を整えるか。今後ますます介護環境がきびしくなるなかで、経営側の大きな課題になっていくことでしょう。