遊離する群れ
!残酷な表現
こちんと長針がまた回った。首を傾げる。腹が減って仕方ない。くるりと正方の部屋を見回したって壁も天井も床も砂漠のようにからからなのはどんなに幼い頭だっていくらでも理解できる。怠け者の短い針より、沢山動くこちらの方がうまそうだと、試しにぽきんと一本折ってぱくんと口に入れてみた。砂糖のようにほろほろくずれて喉を通って食道から胃袋に真っ逆さま。早すぎて何が何だか分からなかった。甘かったような気もするし辛かったような気もする。ゆっくり味わえばきっともっとうまい筈だと思えばもう止まらなかった。
長針が回った。いくらでもあった。
千本飲んだが何の味もしなかった。何も無い空虚なだけの時間に元より味も実体も無いのは当然だとその時になって初めて気付いたが、いずれ誰かに消費されるだけであるならきっとあれで正解だったなとは思う。飢えたままの腹を抱えていたら頭から袋を被せられてかしゃんと手錠を嵌められた。暴れた拍子に骨と金属が擦れて血が滲む。俺の物を俺が飲んで何が悪い。あら違うわ、私達の時計よ。千本飲みの嘘は大罪。極刑だと鎚をカンカン二回叩いて決した裁判で死ぬのはあんたたちだと叫ぶことはできたけれど、どうして許されると思ったのと聞かれた瞬間に一言も口をきけなくなった。ふと自分の手を見下ろした。鎚が握れる程の大きさではなかった。二人並んだ裁判官がケタケタ笑う。許す側と許される側の高低差に、俺は今日殺される。
宴の開始を宣言するように、男の方が陽気な声を張り上げた。高らかに蹴散らされたアルミ缶。プラスチックのピーラーを手渡した女はきゃらきゃらと笑い続けていた。
「執行だ! 二度と嘘などつけないよう、汚い化けの皮を剥いでやろう」
自分の目から雫が流れていることには、最後まで気付かないままだった。
かちん。