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井戸から湧き出る酒

今日のおすすめの一冊は、竹内政明(まさあき)氏の『心にジーンと響く108の名言』(だいわ文庫)です。その中から「人生でいちばん危険なこと」という題でブログを書きました。

本書の中に「井戸から湧き出る酒」という心に響く文章がありました。

《はだかにて うまれきたのに なにふそく》作者不詳 

居酒屋に毎日、老人が通ってくる。飲むだけ飲むと、酒代を置かずに帰る。居酒屋のかみさんは、一度として勘定を請求したことがない。ある日、老人は帰りしな、「長いこと世話になったお礼に」と薬をふた粒、井戸に投げ入れて去った。

すると翌日から、井戸には酒が湧き出るようになり、その味が絶品と評判になる。店は富み栄えた。 歳月が流れ、例の老人が居酒屋にひょっこり現れた。老人はたずねた。「商売は繁盛しているかの?」。

かみさんは、「井戸から湧く酒なので酒粕ができなくて不自由しています」と不満を述べた。老人が嘆息して井戸に近づくと、ふた粒の薬がひとりでに躍り出た。老人はそれを袋に納めて去った。井戸は、ただの井戸に戻った。 

中国に伝わる奇譚(きたん)という。森鉄三氏が随筆集『落葉籠』(中公文庫)に書き留めている。 

最初は頬ペタをつねってみたくなるほどの幸福と感じられた出来事も、それが当たり前になってくると、不満が頭をもたげてくる。人間というのは、どうしようもないものである。 

野球評論家の豊田泰光氏はその句をどこかの銭湯の壁で見かけたという。豊田氏のエッセイは、実力もないのにメジャーリーグへ行きたがる風潮に苦言を呈したもので、掲出の一句につづけて以下のような文章がある。 

《今いる場所、与えられた地位の幸せに、まず思いを巡らすことだ》

◆メーテルリンクの書いた「青い鳥」という童話がある。チルチルとミチルという兄妹が、幸せの青い鳥を探しにいく話だ。遠くまで探しに行くが、見つけたのは、結局は自分の家の中だった、という何とも幸せの本質をつく話だ。

「幸せ」はどこか遠くにあるものではなく、自分のまわりで見つけるものであり、感じるものである、ということ。

ただし、どんなに恵まれていても、それが当たり前になってしまったら、「幸せ」は見つけることができない。

それは、病気になったり、災害や事故に出逢ったときに分かる。今まで、どれだけ幸せだったのか、と。

「井戸から湧き出る酒」という話を折にふれ、思い出したい。

今日のブログはこちらから→人の心に灯をともす


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