[2025年書き初め]ロンドンの食卓から考える、科学技術と量子コンピュータ産業
ロンドンにて、中国産の昆布とロシア産のニシンでできた日本料理を食べながら正月を祝う
ロンドンでの生活が始まって2週間が経ち、久々に料理ができる環境に心が躍っている。
朝は、中央アメリカ産のコーヒー豆で淹れたエスプレッソから始まる。日本米を炊き、スーパーで買ってきたイギリス産の白菜で浅漬けを作る。鍋には、ロメインレタスと呼ばれる、シーザーサラダに出てくるレタスがよく合う。ジャパニーズカレーを嗜み、ヨーグルトベースのインドカレーを嗜む。正月は、中国産の昆布とロシア産のニシンでできた日本料理の佃煮を食べながら祝う。
ロンドンにいると、色々な国と人種の人と会い、いろいろな国の文化に触れる。そして、国・人種・文化が違えど、みな同じ社会システムの中で生活していることを実感する。
「量子コンピュータ産業を興す」ことの意義
私は、株式会社Jijという大規模計算を必要とするエネルギー・製造業・交通といった産業課題を、数理最適化と量子コンピュータのテクノロジーで解決するディープテックスタートアップの一員である。グローバルに事業展開をするためにロンドンに拠点を置いている。
2023年から2年間、英国・米国・ドイツ・フランス・オランダ・スペイン・オーストリア・カナダ・シンガポールの9カ国へ訪問した。現地の政府機関・研究機関・スタートアップ・大企業の関係者と協議してきた。
産業勃興期には、個社の収益だけでなく、国内外の関係者と連携して政策を構築していくことが大事だと考えている。関係者との協議を通じて、「量子コンピュータ産業を興す」ことは、科学技術の進化や経済発展に留まらず、安全保障や国際社会の秩序、新しい平和の形といった、国際情勢の枠組みの中でとても大きな意味合いを持つことを感じる。
科学技術の国際社会への使命
社会が複雑化する中で、科学技術の期待が高まっている。
外交面では、外交青書にて「科学技術の積極的な活用」について述べられている。
経済安全保障面では、経済産業省が公開しているアクションプランにて、「最先端技術の自律性、優位性、不可欠性の確保」について記述されている。
ODA(政府開発援助)のモデルは、これまでのインフラ投資から科学技術の活用にシフトしている。
このように、複雑化する社会における「新しい平和」を実現するために、科学技術の期待がより一層高まっている。
日本における科学技術の位置付け
日本の食糧自給率とエネルギー自給率の低さ
日本は、食料自給率とエネルギー自給率のいずれも低い状況にある。
食料自給率は、諸外国と比較するとカロリーベース・生産額ベースともに低い水準にある。
エネルギー自給率は、2020年度は11.3%と諸外国と比較して極めて低い水準となる。
このように、食料自給率とエネルギー自給率の低さを鑑みると、科学技術による税収確保がとても重要となる。
科学技術研究費
総務省統計局は2024年12月13日、2023年度の科学技術研究調査結果を公表した。2023年度の科学技術研究費は22兆497億円(前年度比6.5%増)で、3年連続で過去最高を更新。国内総生産(GDP)に対する研究費の比率は3.70%(前年度比0.05ポイント上昇)となった。
このように、日本における科学技術の位置付けは高まっている。
私の創りたい量子コンピュータ産業のあり姿
量子コンピュータ産業を興す当事者として、私の意思を記したいと思う。
なのだから、未来に対して受け身になるのではなく、意思を込めたい。
1) 産業化と政府投資の回収
この時点で、(仮に技術的に未成熟だとしても)利用できうる最大限の技術が活用され、企業単位での事業モデルと、国レベルでの社会システムの収益モデルが構築されている。
ソリューションが企業の事業課題を抜本的に解決し、収益構造を構築し、ビジネスとして成立・拡大させる。具体的には、エネルギーや製造、物流・交通といったインフラに組み込み、運用され、事業課題を解決するとともに収益を最大化している。
各国の政府が、2010年代後半より積極的に投資してきた政府助成金が回収期に入り、企業の事業課題を解決することを通じて創出された収益が新たな税収を生み、社会システムが恩恵を受けている。
2) グローバルサプライチェーンの構築
世界を分断や対立ではなく、協調に導くグローバルサプライチェーンを構築する。
気候変動や災害・戦争などの変動リスクに耐えうる自由貿易ネットワークを構築し、「新しい平和」の形を実現する。
国際的な連携を推進しつつ、「日本オリジナル」を追求する。
3) 科学技術を牽引するリーダーとなる
研究開発(R&D)と社会システムの収益モデルを掛け合わせた産業化と、複雑化する社会課題を率先して解決することを実現するリーダーとなる。
脱炭素社会の構築や地震・台風などの災害の問題解決に寄与し、産業界のリーダーとなる。
各国が平和的な外交をする上でのカードとなっている。
メルボルンの食文化から学んだ哲学
私の事業家としての哲学は、三井物産に勤務していた時代、特に、オーストラリアのメルボルンに駐在していた時代に作られたと思う。メルボルンは多人種からなる都市で、みなが自由で、独立している。街にはレバニーズ・中華・ベトナム料理・イタリアン・韓国料理・日本食を楽しめるお店が至る所にある。どのお店にも、国籍・人種関係なく、食を楽しむ風景があった。同じ社会のシステムの中で、他国の文化に溶け込みつつ、個々の文化を重んじる。ロンドンでも同じ雰囲気を感じる。
量子コンピュータ産業に従事する一人として、メルボルンとロンドンで学んだ哲学を反映させていきたい。