流れ
改札を出たところで、大きな紙袋を持った少年がうろうろしていた。紙袋には、家電量販店のロゴが入っているが、中身はそれと関係ないらしい。
私は少年を追い越し、駅前のコンビニに入った。明日の朝食とタバコを一箱買って店を出ると、隣りの中華惣菜屋の前に少年が立っていた。店頭に積まれた惣菜を眺めていた。その表情に空腹の色はなく、無表情だった。
少年と私は目があった。私を見ているというよりは、私を通り越して、どこか遠くを見つめているような眼差しだった。少年にとって、私も惣菜も風景にすぎないのだろうか。そこに意思の疎通をはかる余地はなく、私は少年とすれ違った。
私は少し歩いたところで、後ろを振り返った。少年は惣菜屋を離れ、再び駅前をうろうろしていた。誰かを待っているのだろうか。
次々と改札を出てくる人たちは、誰も少年のことを気に止める様子はない。気になるけれども、気にしていないふりをしているだけなのかもしれない。それは冷たくもあり、平和でもある。だから今宵、少年の身にはきっと何も起きない。誰も少年を誘拐しないし、誰も紙袋を引ったくらない。そのうち親か親戚がやってきて、帰路につくのだろう。
私は昔観た映画のことを思い出していた。親に捨てられた子供達が自力で生きていく話。妹が転んで頭を打って、そのまま死んでしまう。兄弟たちは、冷たくなった妹の亡骸をスーツケースに入れて、滑走路の側の空き地に埋葬する。いつか飛行機に乗ってみたいという妹の夢を叶えてあげたのだっけ。
遠くに浮かぶ湾岸都市の航空障害灯、中華料理の匂いが漂う駅前、帰宅ラッシュで行き交う雑踏。毎日繰り返されるその光景から、少年だけは自由なのに、同じところを行ったり来たり。いづれ迎えがくれば、彼もまた流されてしまう。
私もまた帰宅した。昨日と同じ道を歩いて、同じ動作で玄関のドアを開け、同じ場所にカバンを置いて、バルコニーでタバコに火をつける。煙が風に流される。それが昨日と同じかなんて、覚えていない。
〜
カバー写真:ヒロム
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?