石綿大夢/いしわたひろむ

いしわたひろむ/俳優・演出・ワークショップ 劇団 綿座代表。オフィス・ルード所属。天狼院書店「名作演劇ゼミ」講師。 今年もげんき!

石綿大夢/いしわたひろむ

いしわたひろむ/俳優・演出・ワークショップ 劇団 綿座代表。オフィス・ルード所属。天狼院書店「名作演劇ゼミ」講師。 今年もげんき!

最近の記事

確かにどちらも「とーたん」だった〜くちびるの会『老獣のおたけび』

僕の父はよく昔の話、それも僕が小さい頃の、記憶にないような時期の話をよくしてくれた。 例えばまだかろうじて喋るようになったような1歳ごろ。『西遊記』の読み聞かせをしていると、父は、僕が言葉を真似ていることに気がついた。僕は本当に落ち着きがなく、常に何か喋っていないと気が済まないようなわんぱく坊主だったらしい。「石の卵」がどうしても言えず、「石のたもま」と言って譲らなかったこと。僕が長男なのも相まって、それがたまらなく可愛かった話などを、はずがしがることもなく、マジな顔で語って

    • 思えば遠くへきたものだ

      バタバタしていて、このNOTEの更新がおそろかになる。 なんだかもうそんなことは、学生時代から、なんなら幼少期に日記をつけ始めようと思った時から、ダメな意味で慣れっこだ。 だから反省も後悔しないけど、ここはまとまった文章を書ける場所として、とっておきたいの。最後の砦的に。 思えば、約一年前の2021年6月。 コロナウィルスの影響なのかそうじゃないのかわからんが、仕事が激減した。 まぁ激減と言ったって、元々そんなに多くはないのだから、減少量は高が知れているが、感染者急増による

      • 三十三

        三十三歳に、なった。 こう書いてしまうと、思いのほかあっけない。それもそうだ。前日の三十二の自分と、三十三の自分では特に何も変化はない。誕生日だということで焼肉に行ったので、少し油が胃に重い。それくらいだ。 それでも、気持ち的には少し違うものがある。 三十三歳。僕が生まれた時の、親父の年齢だからだ。 小学校の教員をしていた親父と、小学校の養護教諭(つまり保健室の先生)をしていた両親の出会いについて、僕と弟はこれでもかと聞かされて育った。 「母さんが部屋に入ってきた時、雷が落

        • 名前も忘れた味噌ラーメン

          これだ、と思った。 この苦しみが終わった時に食べるべき一杯は、これしかない。 もう何年前のことだろう。僕は大学院の修士論文の執筆に追われていた。 いや、追われていたなんてもんじゃない。寝ても覚めても、頭の中は修士論文のことばかり。家でご飯を食べていても、バイトしている時も、帰りの電車、トイレ、お風呂。最低4万字という、実に卒業論文の倍の分量を書かなければならない修士論文のことで、あの年末は頭が支配されていた。 好きな読書も、手につかなかった。あの時期は、修論の参考図書しか受

          溶け込んだ演劇ー『ちぇんじ・図書館のすきまから』

          ここは、どこだ。 電車を乗り継ぎ、バスに30分以上揺られてきた。八王子の田舎(失礼)には、自販機も所々しかなく、乾いた喉を潤すのにも少し難儀する。ただ、抜けるような青い空と澄んだ空気は格別で、これが同じ東京かと疑ってしまう。 僕は電車とバスにゆられているうちに、どこかもっと遠方の、自然豊かな田舎に流れ着いてしまったのではないか。 不安を感じつつ、スマホの地図を確認する。合ってる。もうすぐそこだ。 本当にこんなところに劇場などあるのだろうか。 23区内の劇場は大小関わらず、

          溶け込んだ演劇ー『ちぇんじ・図書館のすきまから』

          『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』

          以下の文章は映画『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』のネタバレを激しく含みます。 まだご覧になっていない方は、絶対に読まないでください! そりゃあ文章を書いて、わざわざ更新してるんだもの。読んでほしい、読んでほしいさ。 でも同じマーベル・ファン、親愛なるスパイディを愛する一人として、今回の作品はネタバレ厳禁。フレルコトヲキンズル。 いやぁね。もう最高でしたよ。トビー・マグワイア版のスパイダーマンを初めて劇場で見た日からのファンとしては、その後のアンドリュー・ガーフィール

          『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』

          雪の記憶、あるいは責任感の行き場について

          最近の暖冬には珍しく、しんしんと雪が降り積もった夜だった。 今の家に引っ越してきて5ヶ月。この家で冬を越すのは初めてで、小さい部屋に似つかわしくない大きな庭に、雪が少しずつ少しずつ積もっていく様を、時間を置いては確認してしまう。横浜生まれ横浜育ちの僕には、大人となったといえども雪は珍しく、思わずはしゃいでしまう。童心に帰る貴重な機会だ。 テレビでは、鉄道や交通の事故のニュースが流れてくる。東京の交通網は、本当に雪に弱い。 僕には雪を見ていると思い出す記憶がある。 前日

          雪の記憶、あるいは責任感の行き場について

          2022年、「通常モード」で参ります

          新年あけましておめでとうございます。 とか、新春らしい挨拶をしておきながら本日はもう1月5日。 「光陰矢の如し」とは言いますが、ここ数年特に一年の過ぎ去る時間の早さを感じます。きっと歳をとったのでしょう。 いや、30そこらで「歳をとった」などと抜かしては、諸先輩方にお叱りを受けてしまう。 ここ数年、具体的に言ってしまえばここ2年ほど。 個人的には、少し怠けていたと思っている。 「何を?」と聞かれると、なんとも答えに窮してしまうけど。 それはきっと「表現すること」だったり、「

          2022年、「通常モード」で参ります

          『これはただの夏』

          棒を持った指に、ほんのり冷たい、なめらかなクリームが伝う。うかうかしていると、溶けて崩れて、なくなってしまいそうな。プール終わりにねだって買ってもらった、自販機のアイスが、まず思い出された。弟と味の違うものを買ってもらい、夢中でかじりつく。水で冷えた体の表面とは対照的に、少し火照った体の内奥を冷やすように。一口、二口と口に含んでは味わっていく。 それはとても甘くて満たされるが、喉を過ぎれば、その後味は意外なほどにあっけない。もう一度思い出そうとして残りのアイスを頬張るが、初め

          傑作をもう一度

          のんびり眺めていてほしい、とは言ったものの、これはさすがにのんびりしすぎた。それに今日は前の記事に書いたロンドン飯の話題ではない。 実は最近、以前から興味があったライティングの講座に参加している。 書くことには昔から興味があった。実は友人たち誰にも言っていないが、こそこそと脚本を書いてみたこともある。稽古終わり、一時間以上かけて横浜の家まで帰り、今日も書くぞ! と意気込んでパソコンを開く。主人公がもっと苦しんだ方がドラマとして厚みが出るんじゃないか、設定を変えたほうがテーマ

          あのロンドンも、曇天だったと思う。

          何しろ10年経っている。 大学院の卒業間近。学割が使える貴重な期間に、海外で芝居が見たい!自分の趣味としてはニューヨークより、ロンドンかなぁとか勝手に夢想して、でもバイトもそこそこに修士論文執筆と稽古で年を明かしたばかりで資金もなく、親に頭を下げて意を決してロンドンに観劇旅行に行こうと決めた。 英語がそんなに得意ではないので、正直不安が無かったわけではないが、明らかにワクワクが勝っていた。あのロンドンで芝居が見れる!ハリーが歩いた、あのキングスクロス駅を俺も歩ける!あわよく

          あのロンドンも、曇天だったと思う。

          『LA フード・ダイアリー』

          著者 三浦哲哉 映画研究者の著者がサバティカル(在外研究)で、一年間ロサンゼルスに滞在。 その時に出会った食を通して、国、食、映画文化や多様性。さまざまなことに思いを巡らせた記録である。 フード系の軽いエッセイかと思って読み始めたが、 食を通してロサンゼルスという街のことや、アメリカという国のメンタリティ。民族多様性のあり様や概念としての「故郷」についてなど、 食を通して深く考察された良い一冊でした。 〝食〟を掘るとき、自分もまた掘られている。 中でも個人的に共感した

          『LA フード・ダイアリー』

          『闇の左手』

          以前、かなり難儀していると書いていた小説を読了いたしました! ファンタジーの名手 アーシェラ・K・ル・グィン作。小尾芙佐訳。 ル・グィンは『ゲド戦記』の著者の方です。 ひろく生きるための想像力 以前書いた通り、個人的にはかなり読むのに難儀しました。何故かというと、作中世界の文化的背景や人物人種など、〝世界観〟の構築がとても緻密で繊細。堅牢な城壁を一歩ずつ登っているような感覚でした。 作品世界で衝撃的なのは、惑星《冬》の人間は両性具有であり、「ケメル」という繁殖期があること

          『1シート・マーケティング』

          近くを通りかかったら、ふらっと店頭を覗こうと思っている書店 池袋の天狼院書店です。 書店と言いながら、カフェ併設だしライティングだったり様々なことが学べる講座を、かなり盛りだくさんで開催しているステキ本屋なのです。いわゆる大型書店ではないので、売り場面積は非常に小さいですが、その代わりこだわりのセレクト本が置いてあります。個人的には演劇・映像分野の本が充実してるのが嬉しくて、結構な頻度で通っています。(うちの奥様は同じビル1つ下の階のユザワヤが御用達です。) その天狼院書

          『1シート・マーケティング』

          意味わかんない、を、楽しむ

          僕が愛用している神楽坂のジョナサン。お昼時でもそんなに混んでおらず、長居してもあまり罪悪感がわかない(笑) 文章を書いたり、本と向き合わなきゃいけないような時はよくここを利用させていただくのですが、このお店の目の前におしゃれな本屋さんがあります。 その名もかもめブックス!! とっても素敵な本屋さんで、いわゆる大型書店ではないけれど、素敵な本がテーマごとに並んでいて。何時間でもっていうのは言い過ぎだけど、軽く一時間ぐらいはすぐ時が経ってしまう。そんなおしゃれ素敵スポットです。

          意味わかんない、を、楽しむ

          『痛いほどきみが好きなのに』

          その本を手に取ってページを開いていく、、 そのきっかけは本当に様々です。 次の予定まで少しだけ時間が空いたけどどうしよう、そんなタイミングで入ったことがない本屋なんかを見かける。ふらりと入って、どんな作品があるのかふむふむここのお店は結構最近話題になった小説やビジネス書を手厚く取り揃えているな、とか そこが古本屋だったりすると、あぁここは文芸関係が多いなとか なかなか知らないジャンルだけど、かなり前の地理に関する本だ面白い。 とか、思ってふと。 何か大きい衝動に駆られての

          『痛いほどきみが好きなのに』