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(犬の狼への変身など誰も信じない)

 As the season gets colder,
 I turn into a wolf,
 day or night,
 full moon or not,
 but especially in the early morning before dawn,
 I turn into a wolf.
 I'm not trying to attract the attention of young people.
 As the season gets colder,
 young people think I'm a dog,
 and say I'm cute.
 I have to correct.
 I'm a wolf,
 cute doesn't suit me,
 whether I'm young or not.
 Young people know I'm a wolf,
 and say I'm cute.

 季節が寒くなるにつれて、
 おれは狼になる、
 昼であれ夜であれ、
 満月であろうがなかろうが、
 しかし特に夜明け前の早朝に、
 おれは狼になる。
 若者たちの気を引くつもりはない。
 季節が寒くなるにつれて、
 若者たちはおれを犬だと思い、
 かわいいと言う。
 訂正をしなければならない。
 おれは狼だ、
 かわいいは相応しくない、
 おれが若かろうがなかろうが。
 若者たちはおれが狼であることをわかっていて、
 可愛いと言う。

 たとえば〈「犬と狼のあいだ」〔entre chien et loup〕という表現は、ある一定の時刻と、それとはまったく別のこととを表していた。灰色、灰色の歌というものもあったが、それは眠気や周期的なものや永遠のものにも劣らぬ抗いがたい力で夜が近づいてくる時刻、町では街灯が灯り、子供たちが遊びたい一心で、続かせよう、あるいはただ長びかせようとしながらも、その目が突然生きいきと輝いたかと思うとあっという間にふさがってしまう時刻、いかなる存在もおのれの影に、したがって自分とは別のものになってしまう時刻〔l'heure où〕――ここでの場所の福祉を用いるのは、この時刻が時間以上に或る空間を指しているからだ――、犬を狼からほとんど区別できなくなる時刻、変身の時刻、そのとき犬が狼になることを、人々が期待しつつも恐れる時刻、いわば遠くから、少なくとも初期中世から、原野で狼が犬に取ってかわりつつあった時代から立ち戻ってくる時刻、ある単純な事柄を、だがそれを事のついでにふと口にすると、私の言葉を耳にした責任者たちが考えただけでぞっとして声を張り上げ、ほとんど喚き散らしたゆな事柄を述べるため、はずみをつけようと後退りをするように、読者をきっとうんざりさせたに違いないこの総合文を私は書かなければならなかった。どんな考えかって? 論理的な考察を私は何よりも恐れていた、たとえばフェダイーンの、シーア派なりムスリム同胞団への眼に見えない変身を。私の周囲の誰にとってもこんな作用は自明ではなかった。この変化が突然の、眼に見える、外的なものならその通りだったろう。しかし人は誰でも内的で隠れた自分自身との討論や悩みとともに生まれ成長するものだから、ムスリム同胞団員がひそかにフェダイーを包囲することもありえないとは言えまい。〈黄昏時〉という言葉とは反対に、「犬と狼のあいだ」とは、ここでは――ここでは、そして私にとっては――フェダイーが生きたどんな瞬間も、おそらくは彼の歳月のすべての瞬間をも意味する表現であった。だからフェダイーは、絶えずこの時刻に、少なくともフランスの原野では「犬と狼のあいだ」と命名されていたこの時刻にいたのである。/私たちにとってこの表現の魅力がたぶん多少とも色褪せているのは、私たちの原野の狼が、かの有名な狼罠に足を挟まれたり狼の狩り出しなるもので殺されて、撲滅されてしまったことを知っているからだ。それに狼〔loup〕という単語自体ももうあまり使われず、二つ三つの単語の中で再会するくらいだ。その一つ、「狼狩りの指揮官役」〔louvetier〕は今日では善良なる狩猟の守護者を指しているし、「どじを踏む」〔louper〕は周知の意味のありふれた俗語であり、「(十二歳未満の)ボーイスカウト団員」〔louveteau〕ともなるといよいよ無害になる。要するに狼のことをもう何も知らないので、犬の狼への変身など誰も信じないのである。中東では狼が犬の隙を窺うように、同胞団員がパレスチナ人をつけ狙う危険が残っていた。しかし今日、すなわち一九八五年九月八日でもなお、ある責任者がそんな危険はまったくないと請け合った以上、この脱線は書かれもせず、読まれもしなかったことにしておこう〉、鵜飼哲/海老坂武訳 ジャン・ジュネ著『恋する虜 パレスチナへの旅』(人文書院)から。

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