<アルベール エルバスのLANVINに見た共感のリーダーシップ>偉人の生きざまと時代から学ぶ、ファッション温故知新 VOL.4
カリスマリーダー?共感リーダー?
リーダーのポジションにある人にとって、チームのメンバーとの関係性というのはいつも付きまとう悩みの種かもしれません。
このごろは、人々の憧れを集め、カリスマ的に先頭に立って強い力で引っ張るリーダーもいいけれど、フラットに共感しあえることで人が集まり、それぞれの能力が自然に存分に発揮できる組織を作れるリーダー最強説もありますね。
これはリーダーさんの気質にもよるかと思うので、私のような者が、一概にどちらがいいとか言うことはできませんが。
かつてのフランスきっての老舗メゾンであるLANVINとそのクリエイティブディレクターであったアルベール・エルバス氏との素敵な関係性に、その理想を垣間見た気がしたことを、最近あった個人的なあるきっかけで今さら思い出したので、書き留めておこうと思いました。
超絶ドレープの美しいドレスたちを生んだもの
私がアルベール・エルバス氏とお目にかかる幸運を得たのは、2003年に東京でLANVINのランウエイが行われた時でした。
当時のエルバス氏率いるLANVINは、毎シーズン素晴らしいコレクションが好評を博し、ビジネスも成功していたパリコレのトップブランドの一つでした。
たくさんの美しい服たちと共に、エルバス氏ご本人、アトリエスタッフなどが来日して、その時も夢のように幸せな準備期間をともに過ごさせていただきました。
エルバス氏時代のLANVINの服は、服それ自体が過度に主張することなく、でも着ると否応なしに美しく見えてしまう、動きをエレガントに見せてしまう、着る人に寄り添う「美」の表現だったなと思います。
コレクションは、秋の実りを思わせる様々な深いニュアンスカラーのシルクサテンで、超絶ドレープを駆使したパターンのテクニックが見事なドレスたち。
それに見とれる私に、エルバス氏は、自分のデザインはさておき、
「ランバンアトリエの技、芸術的ですごいだろ?」と、アトリエ自慢ばかりおっしゃっていました。何度も。
クリエイティブディレクターのエルバス氏自身がアトリエの技にほれ込んでいる、アトリエの作り手の皆さんへのリスペクトと、互いの信頼関係がひしひしと感じられました。
あり得ない、「辞めさせないで運動」
それから数年後に、経営方針の違いからエルバス氏がLANVINを離れることになった時に、社員の皆さんからエルバス氏をやめさせないで欲しいと、ストライキも辞さない勢いで運動が沸き起こったというニュースを見た時、驚きと同時に、あの時のランウエイのバックヤードで交わしたあの会話がしみじみと思い出されました。
多くの有名ブランドのクリエイティブディレクターという人は、ほとんどがそのカリスマ性でスタッフのリスペクトを一身に集めているけれど、むしろ尊敬のあまりちょっと恐れられている、というか。
クリエイティブディレクターがブランドを離れる際にこんなことがあったという話は、それまで一度も聞いたことがありませんでした。
アトリエとクリエイティブディレクターの間に、あのような信頼や愛がある関係から生まれてくる「創造」の世界。今やもう新しいコレクションを見ることはないですが、心に焼き付いています。
まさかの訃報
そんなアルベール・エルバス氏の訃報が届いたのはつい4か月ほど前のこと(2021年4月)。エルバス氏は私と実は同い年の、若すぎる残念すぎる訃報でした。
2015年にLANVINを去ってからしばらくはファッション界を離れていたエルバス氏が満を持して復活し、これからのファッション界を占うような、まったく新しいコンセプトの新ブランド、AZ Factory を今年の初めに発表したばかりのことでした。
「もうドレスは見たくない。僕が見たいのは女性だ」
それは、全く新しい、だけれどもエルバス氏の在り方そのものを映し出すコンセプト。
XXSの女性も、子供服売り場になんて行く必要はない。
XXXXLの女性も、ここにエレガントに見せる服がある。
そしてすべてのサイズの女性が心地良くエレガントであるための服。
それを、最新のデジタルテクノロジーを使って作り出したコレクションを、
「もうドレスは見たくない、僕が見たいのは女性だ」というメッセージと共に、2021SSコレクションとして、ユーモアいっぱいの映像で見せてくれたのでした。
着やすくて、エレガントで、カラフルで、華やかで、機能的、そしてエシカル。
糸から開発したというそのコレクションの映像からは、きっとまたLANVINの時のように、エンジニアや研究者、アトリエスタッフと「創造」という場で「お互いへのリスペクト」という触媒を介して深い絆で繋がれているのだなーという雰囲気が伝わってきて涙腺が熱くなる。
「着る人への愛」という、エルバス氏の確固たる動機が、きっとスタッフや協業者に伝染し、共感で巻き込んでいるのだろうなぁ。
さらには、毎シーズンのコレクションでクリエイターの疲弊や無駄を生んでいるファッション界のシステムや、過剰在庫が環境に与える問題などの解決策さえも創造に転換して。
行き詰まりを抱えているファッション界に、明るい光をひと筋差してくれたと確信し、これからへの期待感とファッション愛を再燃させてくれるようなコレクションだと感じました。
そんな感動にわくわくして、一目でこのブランドのファンになった矢先の訃報でした。
ショックはもちろんですが、彼が人生の最後に投じたこの一石が、モード界を動かす原点になっていくことを願ってやみません。
もう、時代はそちらの方向に向かっていることは確実なのだから。
リーダーにこそ、Be yourself!
コレクション映像の最後にエルバス氏が語っているメッセージ。
I love you !
Be yourself !
エルバス氏本人こそが、いつも自分自身であり続けたからゆえ、共感と共に革新的な創造を生む幸せなチームがいつもそこにあったのかなと、私はそんな風に感じています。
改めてエルバス氏へ哀悼の意を捧げるとともに、これからのモード界も見守っていてほしいと、あのチャーミングな笑顔を思い出しながら祈っています。
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