村上春樹とカポーティ

大学で伊藤くんに出会うまで、わたしは小説というものをあまり知らない青春時代を過ごしてきた。小さい頃から読者はもちろん好きで、小学生の時から文章を書くことも得意だったけど、高校生に入ってから、もっぱら、国際政治に関する本を読むようになっていたからだ。

筑紫哲也氏のニュース23を見て、ジャーナリストに憧れるようになった頃、猪口邦子先生の「戦争と平和」という本を読んだ。猪口先生のいる上智大学を受けようと思ったくらい影響を受けて、そこからわたしはユーゴスラビア内戦の原因にひどく興味を惹かれていった。もしかして、それは、宗教や民族間の争いなどではなく、その本が示す通り、単なる経済格差により引き起こされたものなんじゃないか、と思いはじめていた。そして、もともとオタク気質で、とことん調べることが楽しくて仕方ないわたしは、高校時代を国際政治を勉強することに費やしていた。

大学に入って、伊藤くんと付き合いはじめた頃、彼の小説や文学に対する博学さと感性の鋭さに、わたしはとても感銘を受けた。今まで、ジャーナリストの書いた本や政治学の教授の本ばかりを読んでいたわたしにとって、村上春樹は、全く知らない世界だった。

これ、読んでみなよ、といわれて最初に渡されたのは、「ねじまき鳥クロニクル」だった。あまりに衝撃的で、何度も読み直した。村上春樹が気に入ったとわかるやいなや、伊藤くんが、きっと好きだと思うよ、と言って次に貸してくれたのは、カポーティの短編集だった。

わたしは、カポーティにどハマりした。幻想的でありながら、どこかリアリティを感じる、もの悲しい短編たちに、グッと胸をつかまれた。

カポーティの寂しげな私生活を思うと、切なくて、胸が苦しくなる。彼の書いた小説を読んでも、どうしても彼の面影を感じてしまう。夢のように幻想的でありながら、きっと彼が体験したことなんじゃないか、と感じずにはいられなかったし、わたしも夢の中や前世で体験したことなんじゃないか、と思ってしまうくらい、彼のストーリーに共感し、ハマっていった。








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