ヒロ兄
ヒロ兄とどうやって知り合ったのか、初対面の時のことを、今となっては、全然覚えていない。クマさんみたいな大きな身体で、優しい笑みをたたえ、少し寂しそうに話す。
ヒロ兄は当時奥沢に住んでいて、伊藤くんやその友達が、よく彼の自宅に遊びに行ってたみたいだった。自由が丘の南口にあるメンタルクリニックを紹介され、そこに結構長いこと通った。主治医のことをわたしはよっしーと呼んでいた。
メンタルクリニックに行った日は、必ずヒロ兄と奥沢でご飯を食べた。大竹まことのお兄さんがやっているカフェのようなビストロのようなお店。何を食べていたかは全然覚えてないけど、味は美味しかった気がする。
ヒロ兄にいろんな話を聞いてもらうと少し気が楽になった。みんながヒロ兄と呼ぶので、わたしもヒロ兄と呼んだ。ヒロ兄は、今で言うところの、パリピみたいなちょっとした業界人で、ヒロ兄の周りには、裏原でビジネスをしたい人とか、ミュージシャンとか、服屋さんとか、いろんな人たちが集まっていた。
わたしも、よくいろんな楽しげなパーティーとかに連れて行ってもらったけど、その頃は、薬をとにかく飲み過ぎていて、アッパー過ぎてたと思う。
よっしーも、いろいろ薬を変えてくれたけど、あまり量は減らなくて、どんどんわたしは躁鬱気味になっていった。でも、自分では気がつかないから、薬であげてるときのアッパーな自分を本来の自分と勘違いしてさらに無理した。
ある時、姉と慕う人と待ち合わせをしていたとき、彼女から、ちょっと遅れるから先に店に入ってて、と連絡がきたのに、わたしはなぜかずっと外で待っていて、遅れてきた彼女に怒られた。それくらい、いつもふわふわしてたのだ。
ヒロ兄がある日、一枚のアルバムを教えてくれた。G.RINAさんのデビューアルバムだった。わたしは、ジャケットに写ってるRINAさんがあまりに美しすぎて、そのオリエンタルな美貌に目を奪われた。
浮遊感のある音楽もとても良くて、とても独特で美しいな、と感動した。