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メソッド演技の短所を突いた、「マイズナー・テクニック」

【タイトル】Sanford Meisner on Acting (1987)
【著者】Sanford Meisner & Dennis Longwell

※翻訳本『サンフォード・マイズナー・オン・アクティング』も出版されていますが、原書をもとに書いているので、和訳は自分流です;;

サンフォード・マイズナーについて

サンフォード・マイズナーは現代における演技指導の巨匠の一人である。1930年代にスタニスラフスキーの演技理論「スタニスラフスキー・システム」をアメリカで導入したグループ・シアターの創設者の一人。「スタニスラフスキー・システム」をベースにした「マイズナー・テクニック」で知られる。

グループ・シアターでは、「スタニスラフスキー・システム」をベースとした「メソッド演技法」がリー・ストラスバーグ主導で確立されていた。「マイズナー・テクニック」の特徴は、「メソッド演技法」で強調されていた「感情の記憶(=affective memory)」を完全に放棄した点である。

「感情の記憶」とは、キャラクターのある感情を演じるために、役者自身の経験と追随する感情を「意識的に」湧きたたせる方法である。マイズナーは、スタニスラフスキーが役者自身の経験ではなく、戯曲から導き出せるキャラクターの「与えられた状況(=the given circumstances)」に重点を置いていることに着目し、リー・ストラスバーグの「メソッド演技法」に異議を唱えた。「意識」を用いる技術を切り捨てた、「本能」による演技こそが「マイズナー・テクニック」の根幹にある。

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役者へのおすすめ度:★★★★★(5/5)
リー・ストラスバーグ、ステラ・アドラー、ウタ・ハーゲンなどに並ぶ演技指導の巨匠一人であるサンフォード・マイズナーのテクニックが凝縮された一冊であり、「マイズナー・テクニック」とは何かを知る上での必読書。

「マイズナー・テクニック」を取り入れている演劇学校:The Sanford Meisner Center

本の要点

《第2~5章:Repetition》

"The Foundation of acting is the reality of doing."
(演技の基礎とは、何かを「する」行為である。)

・「歌を口ずさむ」のような行為一つをとっても、キャラクターとして歌を口ずさむ「フリをする」のと、本当に自分自身のためだけに口ずさむ「行為をする」ことに大きな違いがある。演技とは、一つの一つのアクションを後者の意味で「する」ことである。

・「する」ということは、「意識」の働きを最大限に抑制し、「本能」から来る衝動に身をゆだねることが重要である。この「内なる衝動」に反応できるように使えるエクササイズが「単語を繰り返すゲーム(=Word Repetition Game)」だ。このエクササイズは、傍から見れば「つまらない」ものかもしれないが、行っている本人たちにとっては「内なる衝動」を感知し、「本能」に身をゆだねる感覚を確認できるダイナミックなエクササイズである。

・「単語を繰り返すゲーム」は色々なバリエーションがある。
 →Word Repetition Game:単語を繰り返すのみ
    →Word Repetition Game from Your Point of View:相手の単語を繰り返すことが前提だが、自分の反応に合わせて若干言い方を変えてもOK
    →Word Repetition Game with an Independent Activity:一人が「難易度が高く(difficult)」「理由が明確な (why)」何かをし、もう一人がドアをノックし、相手の注意を引こうとする

"Silence. Until something happens that makes you do something!"
(自分が何かをしたいと思う何かが起こるまで、無理に反応しない)

・特に最後のバリエーションに関して:
 →自分が何かをしたいと思う何かが起こるまで、無理に反応しない
 →ドアのノック一つでも、状況次第で仕方が大きく変わる

・セリフに関しても、「単語を繰り返すゲーム」同様に「きっかけとなる合図を待って自分のセリフを言うのではなく、衝動を待つ」("One doesn't pick up cues, one picks up impulses.")

《第6~8章:Preparation》

"Your imagination is, in all likelihood, deeper and more persuasive than the real experience."
(想像力は、過去の経験よりも、役者に深く説得力のある影響を及ぼす可能性が高い)

「準備(preparation)」は、感情が活性化した状態 (=emotional aliveness) でシーンを始めるための道具であり、感情が空のまま (=emotionally empty) シーンを始めないことが意図である。

・「準備」には想像力を使う。自分を最もその感情状態に刺激できる「仮想の状況」を思い浮かべること。これは空想 (=daydreaming) するようなものである。そして、自分を刺激する状況は時おり変わるため、効果が失われれば新しい状況に変える必要がある。

・「仮想の状況」は、具体的 (=specific)・有意義 (=meaningful)・端的 (=simple)な必要がある。

※スタニスラフスキーは当初、実際に自分の過去に起きた事象を思い出すことで必要な感情状態に達する「感情の記憶(=emotion memory)」を提唱していたが、その後この手段を破棄した。過去の思い出に対する現在の自分の反応は変わるからだ(大事な人を失った過去を思い返して、涙が流れる時期もあれば、そうでない時期も来る)。

・想像力による感情の活性化は、あくまでシーンを始めるためだけに用いり、シーンが始まってしまえば手放し、舞台上の他の要素に感受的になる柔軟性を持っていないといけない (=going along from moment to moment)。

セリフは「カヌー」、感情は「川」である。川の流れによってカヌーの揺れ具合も変わるように、感情を自由に流した上でセリフも自由に変動する状態が望ましい。

《第9章:Particularization》

"The text is your greatest enemy."
(役者にとって最大の敵は、台本に書かれたテキストそのものである。)

「たとえ (=as if/particularization)」とは、台本上のイベントとそれへの反応を自分ごと化するために、過去の経験または想像から「たとえ」を割り当てるプロセスである。

・特に台本が自分からかけ離れた、または経験したことのない状況を描写している場合、その状況下で自分を「生かす」ために(=evolve a situation for yourself)「この状況は自分にとって『たとえば』○○のようなことだ」と分析する。

・「準備(=preparation)」は効力がなくなったら都度新しいものに変えていかないといけないが、「たとえ(=particularization)」は一度決めたら変わらない。

《第10~11章:Making the Part Your Own》

Character comes from how you do what you do.
(キャラクターは、役者が各アクションをどのようにするのかで示される。)

・セリフをまずは自分の言葉に置き換えて言い、その後セリフ通りに話すことで「自分の言葉」になる。(=They [the text] comes from us.)

・台本上にない想像上の質問に答えていくことで、役をより自分色に染めることができる(=making the part your own)

Anybody can read. But acting is living under imaginary circumstances.
(読むことは誰にだってできる。演技とは、架空の状況の中で「生きる」ことを言うのだ。)

・「悲しむ」という反応一つにも、示し方は色々ある。ただし、泣かずに「涙をこらえる」のであれば、「こらえる」何かは自分の中に湧き上がっていないといけない。

・台本上の「優しく」「怒りながら」「懇願しながら」などの指示語は、読者のためにあるもので役者のためにあるものではない(役者としては横線で消していい)。これらの状態は自発的に湧き上がるもので、意識するものではないからである。

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