【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか58】退院まで(8)Day4
木曜日、早朝から婿が病院に行く。今日の13時に退院の予定だ。日本よりも入院期間が短い。娘夫婦は昨日のうちに、ベビーシートがあるタクシーを予約していた。私は買い物を済ませて、掃除、それから昼食の準備、いそいそと。
と、病院で最後のランチが出されたという連絡が入る。昼食は少なめでいいみたい。でも、もうピラフを炊くつもりでご飯を浸水しちゃったから、ま、余ったら夜食べるってことでいっか。
日本のように「ご飯のときは毎食白米を用意」が基本ではなく、成長期のがっつり食べる人がいるわけでもないから、いろいろ柔軟にできて良い。婿は、この献立だとパンが欲しいなっていうときはバゲットを切って焼いて食べる。バゲットは常にキープ。なんなら普通にご飯を食べた後でバゲット食べる。フランス人にとってバゲットとデザートは別腹なんですって。
1時過ぎ、病院を出るという連絡が入る。タクシーなら10分も掛からないはず。とはいえ、病室からタクシーまで、タクシーから家まではベビーカーだ。家の前はトラムの線路が走っているので、すぐ目の前には車は停められない。今日、初めて使うベビーカーを車から降ろしたり広げたり、べべさんをベルトで固定したりするのに、思いの外、時間が掛かるかもしれない。あれこれあれこれ考えて、そわそわする。
さあ、何分で着くかな。そろそろかな。「あと5分」という連絡が入る。あと5分!あと5分で、たからものさんがおうちに到着だ。すぐにドアが開けられるようにしなくっちゃ。まず鍵を開けて、エレベーターの音がしたらドアを開ければいいかな? エレベーターの音、聞こえるかな? あ、そうか、エレベーターから誰かが降りたら、廊下の電気が点くから、そしたらドアを開ければいいんだ! ドアにある覗き穴には、背伸びしないと私は届かない。背伸びの練習をして、廊下の様子をうかがう。何やってるんだろう、私。落ち着いて待っていられない。
うっすらと機械音、それからお待ちかねの廊下の灯り。慌てて解錠、ドアを開ける。「おかえりー!」。ちょっとびっくり顔の婿は両手に荷物がいっぱいだ。その後ろから、娘がベビーカーを押して登場。
べべさん、おかえりなさい。今までずっとここで、お母さんのおなかの中で暮らしてきたけど、おなかから出てからは初めてだね。ここが、べべさんのおうちだよ。お父さんとお母さんが用意してくれた、べべさんの安心のおうちだよ。べべさんはここで、愛されて、大きくなるんだよ。
寝室からリビングに移動させておいたベビーベッドにべべさんを落ち着かせようとしたが、まずは授乳をご所望とな。それはもう、べべさんのお望みのままに。娘が授乳している間に、婿と昼食を済ませる。こうして、べべさんを中心に回る3世代の生活が始まった。