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【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか5】ビザ取得大作戦(3)必要書類を集める

 慌ただしい一時帰国を終えて12月初めにフランスに戻った娘は、ビザの取得に必要な書類とかの一覧を作り、Googleドライブで私と共有した。これが2023年12月30日のことだ。もうね、親子でGoogleドライブで共有とかね、便利なんだけど、ビジネスかっての。
 必要書類は、私に関係するものよりも、娘と婿に関係するものの方が多い。娘が間違いなく私の娘であること、フランス国籍を持つ人物と法的に結婚していること、フランスでの在留許可を持っていること、婿は本当にフランスで出生して、フランス国籍を持っていること、二人一緒にフランスでの生活実態があること、などなどが証明されなければいけないようである。私に関しては、パスポートや写真の他に、フランスで働かないことを宣誓する書類(雛形がある)、経済力を証明するための金融機関の残高証明ぐらいであった。つまり、私はフランス社会に重荷になりませんよ、ということを示せばいいってことか。

 これは一つ一つ書類を集めていかねばなりますまい。お役所に行って発行してもらわないといけない戸籍謄本とかは、冬休み中に何とかしないと。共通テストが終わったら、生徒対応でそれどころじゃなくなるから、それまでにできることは進めておきたい。
 まずは戸籍謄本をゲットして、フランス大使館が指定している業者に頼んで「法定翻訳」をしてもらわなければならない。名古屋には数件の業者があるようだ。ネットでチェックして、ここ、というところに決める。正月休みが終わったら、連絡しよう。

 正月休み明けの1月4日、私は姉と京都に行った。受験生の担任として恒例の北野天満宮詣でである。ライシテ=政教分離が厳しいフランスだと、これもマズいのだろうか。私は生徒に鉛筆を配りはする。でも、お札を教室に掲示したりはしない。それをやってる担任もいるなあ。それが問題になったこともないなあ。と考えながら京都駅前にいたら証券会社の人から電話があった。ちょうど良かった。残高証明のことを相談できた。今、京都にいるから、明日また電話するね。

 翌1月5日、冬休み最後の平日、この日しか動けないかも、と思って、私はフル回転だった。朝、市役所の支所へ行って戸籍謄本を出してもらい、郵便局へ行ってレターパックを購入した。
 戸籍謄本の翻訳について調べているうちに、「アポスティーユ」という言葉にぶち当たった。外務省に戸籍の内容を証明してもらう?的な?何のことやら分からない。こういうときは、専門家に聞くのが一番である。早速外務省に電話する。
 私は今まで、社会科の授業のために、いろんなところに電話して質問させてもらった。選挙管理委員会、最高裁、農林水産省、外務省、防衛省、新聞社など。電話代は職場持ちである。大抵は懇切丁寧に教えてくれた。忙しいだろうに、ちゃんと対応してくれた。広報活動、啓蒙活動の一環だと思っているのかもしれない。だから、このときもそういう対応を期待していた。
 甘かった。今までで最辛の塩対応に出くわした。一気に高血圧が悪化しそうな勢いだった。部署が違うから? 頓珍漢な問い合わせにくたびれてるとか? それとも「教員」という立場がないと、こんなもんなの? 言ってることが一つも理解できない。早く電話を切りたいと思った。なんなの、大使館とか外務省とか、ビザ関係は塩対応って、国際ルールでもあるわけ? ジュネーヴ協定とか?(←ありません)
 気持ちが落ちたところで、救いは、証券会社の人が早速、私の最寄り駅まで来てくれて、話が前に進んだことだった。朝、電話で話したら、速攻で昼から来てくれた。まあね、私の後ろに退職金という後光が射して見えるからこその対応だと思うけど、外務省に削られた心が癒やされました。こうして貴重な平日休みが終わった。

 因みにアポスティーユの件は、娘にLINEしたら、不要だと確認が取れた。だったら電話しなけりゃ良かった。しかし、後に法定翻訳の業者さんにも「アポスティーユは要らないんですか?」と聞かれて、「はい、不要だと確認しています」と答えながらもドキドキすることになった。未だに分かってない、アポスティーユって何だろ。呪文?

 翻訳業者さんとは最初は電話、それからメールでやりとりした。見積もりをお願いしてから費用を振り込み、戸籍謄本をレターパックで送って、仕事に取りかかってもらう、という流れだった。しかし、あちらが使う用語が分からない。「翻訳査証」? きっとこれがちゃんと法定翻訳しましたっていう証明付きのものってことだよね? 生徒が「知らない」ことに対して、もっと親切にしようと思った。60年の人生で初めての経験は、毎度あちこちの壁に当たり、身体に小さい痣が増えていくような感覚がある。ま、痣ならいずれ消えるし、これも経験だ。
 娘の戸籍謄本だけでいいのか、私のも要るのか、今ひとつ分からない(だーかーらー、フランス外務省の書き方!)。更に控えも用意しろという話だったため、法定翻訳は娘のを1通、それとは別に娘のをもう1つ、私のも2通、普通に翻訳してもらい、費用は2万円ちょっと。
 時間とお金がないとビザって取れないな。平日の日中に電話掛けたり、東京まで出向いたり、できない人も多いだろうに。代行してもらうにしても、お金は掛かるだろうに。

 並行して、娘と婿が、結婚証明書だの出生証明書だの在留許可書だのを次々と入手、pdf化したものをGoogleドライブで共有する。便利な世の中だなあ。私はそれをプリントアウトして、いちいち「わー、フランス語だー」と感動する。フランスの役所が出しているので当たり前である。役所が出す書類の様式が、ぱっと見た感じで日本と全然違う。こういう小さなことも、気持ちに余裕がある限りは面白い。

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