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【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか157】11月(20)パリ行き

 10月の初めに行われた「競技かるたフランス大会」を見に行って以来、またかるたの練習に行けない時期が続いた。パリまで行くのにお金と時間が掛かり、事前にTGVを予約する必要があり、それがまたぎりぎりになると値段が高くなるというシステムで、要するに渋ちんの面倒くさがりには向いてないわけです。11月は日本語を教える教材作りでいっぱいいっぱい、気持ち的にも余裕がなかった。

 しかし、どうしても一回、11月中に行きたい。というのも、クリスマスシーズンに一人でドイツのケルンに行く計画があり、ボルドーからパリ、パリからケルンの列車を予約したのだが、娘に、パリでの列車の乗り換えが時間が掛かるよ、乗り換えルートを一度確認しといた方がいいよ、と言われていたのである。
 ボルドーからのTGVが到着するのは、パリの中でもセーヌ川の南側にあるモンパルナス駅だ。しかし、ケルン方面に行く列車は、パリ北駅から出発する。一度も行ったことがない、パリ北駅。映画か何かで見たような、どこかで聞いたような気がする。かるたの練習会場から北駅まではメトロで一本、北駅からモンパルナス駅までも別のメトロで一本。よーし、予行演習しておこう。

 まずはパリまで行くTGVを予約する。11月中の土曜日でも、日によって値段がだいぶ違う。一番安く行ける23日に決めた。

 7週間ぶりのパリだ。前回来たときは大会の見学だけで自分の練習はしていないから、かるたを取るのは8週間ぶりになる。
 予想以上にぼろぼろだった。弱い、遅い、暗記が入らない、とかいうレベルではない。べべさんの世話で夜中に起きて、その後、眠って目を覚ましたときに自分がどこにいるのか分からない、べべさんの世話をちゃんとしたのか記憶がなくて大混乱に陥ることがある。その感覚が、あろうことか試合中に発生する。え、私ってば今、何やってた? ちゃんと聞いてた? あれ? さっきの札って何だっけ? みたいな感じで、ずるずると負けていく。日本に帰ったらリハビリしないと、人と行う唯一の趣味を失いかねない。

 気を取り直して、練習後、パリ北駅に向かう。メトロから国鉄へのルートは、しっかり案内表示があったので、迷わなかった。国鉄のロビー=Hallが幾つもあるみたいだ。最初に目に入ったのはHall3B。電光掲示板が、出発する電車の行き先、時間、それぞれのホームを示している。電光掲示板の感じは、ボルドーやモンパルナスと同じだ。同じフランス国鉄だもんね。
 ふんふん、ここでホームを確認して、そのホームに行けばいいってことね。簡単じゃん。どれどれ、どこ行きがあるのかな…。ここで気づく。知らない地名ばかりだ。ブリュッセルとかアムステルダムとか、私の目的地ケルンとかが見当たらない。どうもこれは、ローカルな路線ばかりなんじゃないか?
 そうか、きっと、Hall3Bの掲示板には、3Bに繋がるホーム発着の電車しか掲示されないんだ。そして、私が行くべきところは3Bじゃないんだ。ここまで見ただけで、乗り換え大丈夫!なんてつもりになっちゃいけなかったんだ。

 うわー、気がついて良かったー、と思いつつ、他のHallを見て歩く。頭の中には、徒然草の「仁和寺にある法師」が渦巻いている。石清水八幡宮に参拝に行って、入り口だけ見て、全部見た気になった坊さんの話だ。
 無事に、Hall1からケルン行きが出ることを確認する。電光掲示板を見ると「ユーロスター」のマークがついている。ユーロスターってパリ・ロンドン間のことだけを指すんだと思い込んでた。そうか、私、ユーロスターに乗るのね。と、ここで、スマホでユーロスターを検索する。
 そして驚愕の事実が判明する。ユーロスターは、飛び乗れない。日本人のブログには、出発の45分ぐらい前には手続きしないといけないとか書いてある。え、だったら乗り換え、全然楽勝じゃないじゃん。…これって、予約した電車の時間、変更した方がいいかも…。「仁和寺にある法師」最後の戒めの言葉、「少しのことにも、先達はあらまほしき事なり」が浮かんでくる。
 さて、ここからどうなったかは、また12月編でね。取り敢えずこの日は、北駅近くのビールバーでごっきゅごっきゅしました。

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