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【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか44】パリでかるたを(9)モンパルナスでビール

 練習会場に入る前に、先週来たときに教えてもらった美味しいというパン屋さんで、昼食用のパンとコーヒーを買う。大好きなクロワッサンダマンドをゲットして、テンションが上がる。安いテンションだねえ。
 練習会場の建物入り口に着く。が、金属製の重たいドアの開け方が分からない。ちょうどそこに宅配便のお兄さんが来て、電子キーみたいなのでドアを開けたのに便乗して中に入る。こないだは押したら開いたよなあ。あのときは、出てきた人がいた直後だったからかな? 
 10時を過ぎていたので、既に何人かの人が準備に取りかかっていた。先週も会った人もいれば、初めての人もいる。「ボルドーのカヌレを持ってきました」と言ったら、「ここのお店が一番美味しいということを知っているのだからー」と喜んでもらえた。みんな全く遠慮しない。甘いものが嫌いなフランス人はいない、という娘の主張が裏付けられていく。

 この日も5試合、がちでかるたを取る。途中で見学の人が来て、2試合、見よう見まねで取っていった。嬉しいニュースがもう一つあって、東京で開かれた大会で、フランスかるた会の人がD級で優勝し、C級への昇級を果たしたとのこと。彼はフランスの初段認定大会でD級初段に上がって、これが初来日だったという。数少ないチャンスをものにしないといけないという重圧は如何ばかりだったか(競技かるたは、競技団体の公認大会で勝たないと昇級・昇段ができない)。
 外国語の、日常とは異なる不自然なイントネーションの読みを聞いて、アルファベットの26文字より遙かに多い平仮名の、しかも旧仮名遣いで書かれた札を取るって、どんなけハードル高いのか、私には想像もつかない。それでも、こうして新しく参加しようという人がいるのが、凄いなあ。続けて欲しいなあと思う。

 17時過ぎに練習を終えて、地下鉄で帰る。18時前には鉄道駅に到着し、乗る列車まで1時間ちょいある。もっと早いTGVに変えてもらうことはできないか?とちょっと頭をかすめるが、今日は無理しない。それよりも、この巨大な駅を楽しもう。
 駅を歩く。カフェもコンビニもある。日本食を売る「スシ・スタンド」も、雑貨屋さん、アクセサリー屋さん、服屋さん、ブランドもののお店も。でも、見つからないの、ビールが。コンビニやコーヒースタンドでも売ってない。私が思い描いた、缶ビール買ってTGVでぷしゅってやるぜ大作戦が、前提から崩れる。
 あとで婿に聞いたら、缶ビールというのがそもそも少ないらしい。「アル中のイメージがある」とのこと。ボルドーのマルシェではクラフトビールの缶を見たし、近所のスーパーでも缶ビールが置いてあるけど、瓶の方が一般的みたい。お店で飲むのは生ビール。瓶で出てくることもある。
 全体像がつかめない、広くて複雑な駅をうろうろしながら、ちょっと途方に暮れる。

 そこで、Googleマップさんの登場です。現在地周辺で「ビール」を検索する。あら、駅の外ばっかりだわ。でも、すぐ近いところに、めちゃ評価の高いところがある。これは行っちゃうか? 行っちゃいましょう!
 というわけで、生ビールにありつく。ちょうど、私の一番好きな言葉の一つ、ハッピーアワーだ。フランスにもハッピーアワーがあるのよ、素敵。店内で注文して(大小のグラスを見せられて、迷わず大を指さした)、外のテラス席へ。
 はー、これです、これ。このために一日頑張ったんす。何を頑張ったって、自分の楽しみを頑張っただけだけど。ここへ来て、ああ、かるた取るのは、自分の楽しみなんだなって改めて思ったことが一番の収穫かもしれない。

 駅に戻り、発車するホームを確かめ、そろそろ改札へ、と思っていたら、改札の手前でおにぎりを売っている自動販売機を発見した。話のネタに買ってみる。車内で食べたけど、まあ、話のネタ以上のものではなかった。飲食業界にいる友だちに教えたら、「フランスでおにぎりがブームって聞いてたけど、自販機で売られているとは」と驚いていたが、このレベルだったら、彼女がパリでおにぎり屋さんを開いたら簡単に勝てる気がする。同じく中高の同級生だった子がパリで古美術商とアパートレンタルをやってるというから、物件探してもらうか。

 帰りのTGVは、2階建て車両の上階だった。その並びに食堂車があるのを発見した。ビールあるのかしら。お高いのかしら。気になるところだ。
 今度は通路側の席だ。窓側は空いている。おにぎりとペットボトルの水を出し、電車が動き始めたら食べようとスタンバイする。そこへ、若いコーカソイドのお兄ちゃんが話しかけてきて、友だちと隣に座りたいから座席を替わってくれないかと言われ、のーぷろぶれむ!と答えて、一列後ろの窓側に移動する。後から車掌さんがチケットの確認に回ってきたときに、席を替わったんだけどって言ったら、ぜーんぜん構わないよ!という対応だった。
 車両の中に、犬を連れた人が複数いた。複数の犬を連れた人もいた。通路を散歩させたりしている。犬同士がちょっと吠え合ったりもする。それでも、誰もぜーんぜん構わない。
 ボルドーが終点ではないので寝過ごしたらどうしようと思っていたけど、眠る間もなく、ボルドーに到着。2時間ちょっと、早い早い。帰りはぎりぎり日の入り前で、まだ仄明るい中を歩いて帰った。うん、60歳には夜行バスよりこっちの方が正しい。

 後に、婿が職場の上司に、「うちの義母は一人でパリに行く。言葉も通じないのに、平気で行く」と話したら、その上司のお母さんは「パリのメトロの乗り換えが分からないから、一緒に来て」という方だそうで、「日本人でも一人で行くぞ!って伝えよう」と言っていたそうだ。そのお母様がお幾つの方か存じませんが、スマホが使えれば大丈夫でっせ、乗り換え。
 でもきっと、そういう問題じゃないレベルで、一人で行けない人っているんだと思う。私は、他の人の巻き込むことは避けたいけど、自分一人であれば迷子上等!知らない道大好き!である。そりゃ、遅れちゃいけないアポがあったら焦るけど。むしろ一人が楽しいタイプで、娘夫婦に負担にならなくて良かったと思う。

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