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【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか136】10月(27)水が出ない
10月下旬、まさかの事態が発生した。日曜日の夕方、婿が台所で「お湯しか出ない」と口にした。はい? 何だって? 婿はすぐに風呂場に確かめに行き、戻ってきて、「うん、水が出ない。熱いお湯だけ」と言う。どゆこと?
この家で蛇口から水が出るのは、台所と風呂場だけだ。そのどちらも、手元で温度を調整できる。それが、一番冷たい、即ち水だけにすると一滴も出ない。お湯を混ぜると出てくる。でも、出てくるのはお湯だけなので、とんでもなく熱い。
8月に、工事の都合で断水したことがあった。アパートの入り口に張り紙があって、9時から17時までのどこかで断水するという。長引く可能性を考えて、ペットボトルの水を買い込んで、トイレはいざとなったら駅の公衆トイレ?婿のオフィス?、昼間だからシャワーは使わないよね、お湯が欲しければペットボトルの水を湧かせばいい、と考えていた。しかし、実際には、断水したのは気づかないくらいの短時間だけで、何も困らなかった。
今回は困った。本当に困った。以前に買ったペットボトルがあるので、飲み水は困らない。べべさんのミルク用の水もある。
が! 水が出るなら沸かせばお湯になるけど、お湯はすぐには水にならない。そして、トイレも、洗濯機も、食洗機も、水とお湯をそれぞれ混ぜて使っているので、水が出ないとなると、使えないのである。
トイレは、どうもお湯だけをタンクに溜めているようで、使用する時間をあければ流すことができる。タンクに溜まっていないときは、シャワーの熱湯をバケツに入れて、トイレに運んで流す。
食洗機が動かないので、食器も鍋も、手で洗う。洗おうにも熱いお湯しか出てこないので、あぢあぢあぢとか言いながら洗うことになる。漫画だよ、これじゃ。
娘は果敢にシャワーに挑戦したが、火傷しそうで無理!と諦めた。しょうがないね、真夏でなくて良かったね、明日の朝には直ってると信じよう。
期待もむなしく、月曜の朝になっても直っていない。洗濯機は回してもエラー表示が出て、すぐに止まってしまった。こういうときに限って、前日べべさんの服が汚れることが重なって、洗うものがたくさんある。
いやいや、まさか、流石に今日中には直るでしょ、直ったらすぐに洗濯機回そうかね…と言っていたら、そのまさかが現実になった。24時間が過ぎても直らない。今夜もあぢあぢ言いながら皿洗いだ。
仕事から戻った婿が「木曜日まで直らないらしい」と恐ろしいことを言う。まぢすか。ここって先進国だったよね、と娘と話す。それじゃ洗濯はコインランドリーだな。4日もシャワーなしは辛いので、火傷しそうになりながら、お湯を使う。一度壁に当てて跳ね返らせるとか、なんでこんなところで工夫せないかんねん。
火曜日の朝、大量の洗濯物を持ってコインランドリーに行った。荷物が多すぎて、運ぶのにべべさんのベビーカーを使った。ごめんよ、べべさん。最初だけ婿についてきてもらって、洗濯機が動き始めてからは、一人で待つ。18㎏の大型洗濯機が9.5ユーロ。乾燥機は4分で0.5ユーロだが、家に帰って干せばいいから使わない。先客のおじさんが一人、椅子に座っていた(いや、きっと私よりは年下)。思いがけず早くに洗濯機が止まって、本当にこれでおしまいなの?と、おじさんを振り返って「fini?」と聞いたら「fini!」と力強く答えてくれた。めるしーぼくー。
しかし、実際にはその日の午後、直ったのだった。何やねんな、木曜まで水が出ないってのはガセネタだったんかい。
この間、公式な説明はまるで無し。アパート1階のドアに「冷たい水は出ません。漏水」という、走り書きの張り紙があっただけ。誰が書いたのかも分からない。
それとは別に、エレベーターの中にルーズリーフが一枚貼られていた。住人の誰かが「最新情報があれば教えて!」と書いて貼ったものらしい。横に鉛筆もぶらさげられていた。その下に何人かの人が「地下で漏水があったらしい」「木曜日まで直らないそうだ」などと書いている(婿訳)。木曜まで直らないっていうのは、うわさ話レベルの情報だったのか。
娘と、これが日本だったら管理会社から説明があるのでは、ひょっとしたらコインランドリー代として菓子折ぐらい持ってこないかな、と話した。フランスの変なゆるさを、お湯の熱さという触覚で感じた一件であった。火傷しなくて良かった。