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【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか64】生後まもなく(6)おさんどん

 もう一つの生活上の変化は、私がおさんどんをしていることだ。まあ、朝ご飯は基本的に各自が食べたいものを食べるスタイルなのだが、果物を用意するのは私の役目かな。娘の出産以前でも洗濯と掃除は私がしていた。今や炊事も加わった。多分、人生で一番家事をしている。
 常に、頭の中の70%ぐらいを献立作りが占めている。茄子でもキュウリでもツナ缶でも日本の2~3倍の大きさだとか、薄切り肉がないとか、普段行くスーパーには鮮魚はほとんどないとか、いろいろと思いがけない制約がある中で、毎日の昼食、夕食を考えなければならない。
 自由に出掛けることができない娘夫婦のために、ちょっとでも食事が楽しみになるように、と思うのだが、何しろ、いつべべさんが授乳やおむつ替えを要求するか分からないので、どのようにでも対応できるように、ということも献立の大事な条件だ。結果、一品はオーブンを使うなどして、予め作っておくことが多い。

 私を知っている人には意外だろうが、ここ数年、料理を積極的にしてきたのだった。自分の健康のことをちゃんと考えるようになった結果だ。今まで、自分は料理が嫌いで苦手だと思ってきたが、そうでもないかもしれない。
 つらつら思うに、自分が今まで料理に対して忌避感があった理由は二つ。一つは、学生時代の、やることがいっぱいある忙しい中で、30分掛けて一人分のご飯を作っても5分で食べ終わってしまう、という経験だ。料理は時間の無駄、今どきの言葉でいうとタイパが悪い、という感覚が身についてしまったのだと思う。独り暮らしだと、コスパもよろしくない。

 もう一つは、結婚した頃の、料理は当然妻の仕事、という周囲からの無言の圧力に対する反発だ。うちの夫は料理が好きで、自分は得意だと思っている人なので、基本的に炊事関係は夫に任せた(献立を決めて買い物をするのは私が主導権を握っていたが)。多分、世間の常識や偏見、こうあるべきという押しつけに、私は従わない、という意志が働いていたと思う。要するに天邪鬼なんです。

 今、一つには健康を意識せざるを得ない年齢になったこと、もう一つは、「タイパ」という言葉が広がる中でそれに対して「けっ」と思う気持ちがあって(ほら、天邪鬼)、料理をするようになってみたら、あら、面白いじゃないですか。
 自分で食べる分には、失敗してもかまやしない。スマホで食材を入れて検索すれば、いくらでもレシピのヒントは出てくる(その通りに作ったことはあまりないけど。それで気づいたんだけど、レシピを1回は見ても、作っている途中で勝手に変えていってしまう、これをGoogleマップさんを見ながら歩いているときにもやるから、私は道に迷うんだな)。新しい食材や調味料、調理法にチャレンジすると、理科の実験みたいな気分を味わえる。てか、料理は自由だな。

 自分の不器用ぶりがあらわになるからってこともあって今まで嫌がっていたけれど、ものを作る、ということは、本来、それ自体楽しいことなんだな、と思う。それが毎日毎日の義務になると、楽しいばかりでは済まないけれども。今のところ、美味しいと言って食べてくれる人のおかげで、おさんどん係を楽しんでいる。

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