【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか45】フランス議会選挙
私がフランスに出発する前日、フランスのマクロン大統領が国民議会(下院)の解散を断行し、選挙が行われることになった。ヨーロッパ議会の選挙で、極右・国民連合=RNが大勝したことを受けてのものである。
6月30日日曜日に行われる第一回の投票を前に、選挙戦が始まった。テレビやネットでは党首や候補者の討論が行われていたようだが、私は見ていない。だってフランス語なんだもん(当たり前だ)。婿はチェックしていたが、「これを見て投票先を変える人はあんまりいないかな。大体みんな、誰に投票するか決まってると思う」と話していた。
テレビを付けるでもなければ、今が選挙戦の最中なのだと気づくことは少ない。日本で見るような選挙ポスターが貼られる看板も、候補者の名前を連呼する選挙カーも存在しない。広場のようなところでビラを配る人はいる(でも、選挙とは別に、「Free Palestine」のビラだったりもする)。政治的なポスターが貼られている壁もある。「RN=NAZI」という落書きも見た。それでも、街は静かだ。
投票日に先立つ6月26日に、婿宛に封筒が届いた。中を見ると、各政党の公約、訴えがそれぞれB5サイズの両面1枚に印刷されたものが入っている。写真入りでカラフルなものだ。それぞれの政党が工夫を凝らしているのが分かる。更に、名刺よりも2周りぐらい大きいサイズの白い紙に、それぞれの政党とこの地域の立候補者の名前が印刷されたものも同封されている。
投票日にはこの紙の中から自分が投票したい政党のものを選んで持って行き、投票箱に入れるのだそうだ。勿論、持って行かなくても投票はできる。投票所には同じものが用意されているので、そこから選んで投じれば良いのだそうだ。その投票用紙が積んであるテーブルは係の人がチェックして、各政党それぞれ一定以上の枚数が常に用意されているようにコントロールする。特定の政党が極端に減っているなどにより他の人の投票行動に影響を与えないようにするためだろう。
婿に、投票日には一緒についていきたいと言ったところ、朝8時ぐらいに行くけど大丈夫?と聞かれた。婿は並ぶのが嫌で、早く行きたいらしい。大丈夫、この年になると弱いものが多いけど、朝起きるのは強いのよ。てか、寝るにも体力が要るのよ。あんた知らんだろうけど。
当日朝、7時の目覚ましで起きた。娘夫婦もじきに起きてきて一緒に朝食を摂る。さあ、投票所に行きましょう。婿が選挙用の身分証明的なカードを見せてくれた。名刺よりもちょっと大きな二つ折りで、最初のページにはQRコード、最後のページは12に区切られていて、選挙に行くたびに日付印が押される。婿は、この選挙区に引っ越してから、6月9日のEU議会選挙が最初だったため、1つ目の欄にその日付が押されていた。今日は2つ目の欄に押される。
投票所は、アパートから歩いて10分もしないぐらいの場所にあった。写真を撮ることは許可されなかったが、覗いてみると、地域の体育館、といった感じの建物だ。日本の投票所と同じような雰囲気だ。入り口にいたお兄さんが、入ってきた一人ずつに住んでいる場所を聞いて、中にある3つのブースに振り分けていく。日本と違うのは、そのお兄さんも中にいる人たちも、服装が非常にカジュアルであることだ。公務員なのかボランティアなのか、いずれにせよ、Tシャツにジーンズとか、普段着である。
娘と二人で投票所の玄関で待っていたのだが、婿がなかなか出てこない。何かあったのかな?と思っていたら、ようやく出てきて、今晩、開票作業のボランティアをすると言う。実は、以前話していたときに、「ボランティアに登録したいけど、陣痛が始まったら困るから、今回は止めておく」と言っていたのだ。どうも今日明日で産まれることはなさそうだから、ボランティアに参加しても大丈夫と思ったのだろう。
開票作業って、ボランティアを募るんだ。で、そのボランティアは、当日でも申し込みOKなんだ。やっぱりいろいろ日本とは違うわ。婿は夕食後、8時からの開票作業に出掛けていった。思っていたよりも早く、10時前に帰ってきた。大勢の人が参加していたようだ。
翌朝、婿が「来週も選挙に行かなくちゃ」と話す。決選投票になったようだ。小選挙区制で、一回目の投票で有効投票の過半数&有権者の25%以上の得票があれば当選。この条件をクリアする候補者がいなければ決選投票になる。上位二人に加えて、有権者の12.5%の得票があった候補者も第二ラウンドに進めて、合計3人の時も4人の時もあるそうだ。ただし、この時点で辞退する候補者もいる。「今回は、どの選挙区でもマリーヌ=ルペンのところ(RN)が勝ってるから、マクロン大統領のところ(中道)と左派が手を組んで、勝てそうな候補に一本化する選挙区が多いんじゃないかな」とのこと。
7月7日、二度目の投票。婿の選挙区では、結局3人による決選投票になった。実際には既に第一回のときに左派連合の候補者が49%の得票を得ており、第二回でこの人が当選を決めた。
全国でも、事前の極右躍進の予想を覆し、左派連合が多数の議席を占める結果となった。同日、娘夫婦にはべべさんが生まれたのだが、婿の友人の一人は、「左派勝利の日に生まれた赤ちゃんだね!」と婿にメッセージを送ってきたそうだ。
投票率は66%。日本に比べて高く、関心の高さがうかがえる。もっとも、フランスでもこれは数十年ぶりの高さということで、常に投票率が高いわけではないようだ。今回は、極右政党が第一党になるかもしれないということに危機感を覚えた人々が投票に行ったため、投票率が高くなり、左派の勝利に繋がったものと思われる。
選挙カーでの候補者氏名の連呼など内容に乏しい選挙運動、同じ時期に行われた都知事選に見られたような事前報道の偏り…日本の選挙についても考えさせられる経験だった。
後日談:選挙の翌日に、これはひょっとして選挙ポスター看板か?というのを見つけた。市街地ではあったが、表通りではない道である。小汚い大きな看板に番号が振られて、それぞれの番号のところに各政党のポスターが貼られていたが、ほぼ破れていた。謎なのは、二つ横に並んだ看板の、同じ番号のところに違う政党のポスターが貼られていたこと。後日、市内の別の場所でも、同じ看板を見た。やっぱり選挙ポスターなのかな。