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【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか78】8月(4)婿との摩擦④

 最初にぶち切れたのは、婿の方だった。きっかけは些細なこと。要するに、最後のわら一本が乗ってしまって、メンタルの表面張力が決壊したのだ。

 娘は、婿からいろいろ私に対する愚痴を聞いていた。娘は、最終的には夫=パートナーの肩を持つ、というつもりがある(このあたりは、後に私と娘の間で確認した)。その上で、何とか上手くやっていけるようにと、あれこれ気を配っていた。ほんと、べべさんの世話で寝不足のところ、申し訳ないにもほどがある。

 ある日、娘が「明日の朝はクレープが食べたい」と言った。クレープ作りは婿の出番である。日本の我が家に逗留したときにも朝ご飯に作ってくれたことがある。娘としては、婿の家事比率を高めるための提案をしたわけだ。婿は張り切って前の夜から生地の準備をした。
 翌朝、婿が朝食の準備を始めた。私が「クレープ焼くのって、何分ぐらい掛かるの?」と聞いたところ、「1枚焼くのだけだったら30秒、全部で10分ぐらいかな」という返事だった。ここで私が余計なこと第一弾を言ってしまった。「今はまだ授乳中でしょ。冷めるといけないからもうちょっと後で焼いた方がいいんじゃない?」。婿はフライパンの火を止めた(IHだけどね)。
 さて、そろそろ娘の授乳が終わり、朝ご飯の支度を本格化して良い、というタイミングがやってきた。ここで私が「フライパン点けるね。どのくらいの強さにすれば良い?」と余計なこと第二弾を発射した。婿は「自分でやるから」と答えた。「分かった、じゃあ任せるね」と退散する(そして、実際にクレープが焼き終わるまでには30分ぐらい掛かったのだった)。

 朝ご飯の後、婿は寝室に籠もってしまった。昼食にも夕食にも出てこない。天の岩戸だ。踊るか? いやいや、多分、絶対、逆効果。娘が何度か話に行ったが、埒があかない。
 ちょうど週末を迎えるタイミングだった。この週末は、一度距離を取ってみた方が良いかもしれない。私が外出しよう。どこへ?

 一晩中ほとんど眠れなかった。ボルドーで時間をつぶすといっても、市内のほとんどの観光地は回ってしまった。何処か遠いところへ行くか。オリンピック中のパリは論外として、マルセイユ? モン・サン・ミッシェル? そういえば、こないだパリに行った帰りのバスはリスボン行きだったな。いっそ、フランスから外へ行こうか。イベリア半島に行ったことないし、ピレネーを陸で越えるの、興味あるし。
 日本から持ってきた帝国書院の地図帳を開く(何を持ってきてるんだ。社会科教師は地図帳があったら何時間でも遊べるのよ)。リスボンは流石に遠すぎる。もう少し近く、スペインの北の方…バルセロナだ。
 眠れないのをいいことに、早速バルセロナ往復のバスを予約する。明朝9時発。早くに家を出て、バスターミナルで時間をつぶそう。そしたら、婿が部屋から出やすいだろう。泊まるのは安いホステルで結構。バルセロナについては、サグラダファミリア以外にほとんど知識がない。サグラダファミリアってどうやって行けばいいの? あ、予約が要るんだ。おお、ラッキー、明日の夜、最後の1枠を取ることができた。

 というわけで、2泊3日、バルセロナへの一人旅。ええ、バルセロナ最高でした。サグラダファミリアだけじゃなくて、魅力的な建物も、旧市街の路地も、海も素敵だったし、ピンチョスもパエリアも食べました(ビールも飲みました)。でも、本当は、一人じゃない方が良かった。

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