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【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか73】生後まもなく(15)義母様②

 さて、チーズ、生ハムとメロンを美味しくいただいていたところで、事件が起こった。べべさんが過去最大級のうんちを放出したのだ。
 フランス語で「うんち」は「カカ」という(「だから、フランス人は日本のおにぎりを見て、ぎょっとするんだ」とは婿の言葉。英語でも同じじゃないかな、昔、成田美名子の漫画で読んだ気がする)。生まれてからこの時点までに「カカ・スプラッシュ事件」という武勇伝を何度か残しているべべさんだが、このときは凄かった。おむつをご開帳したところで1m以上の長距離砲、ラッキーだったのは、食卓方向ではなかったことだ。娘は着替えることになり、リビングのラグはえらいことになったけど(大家さんには黙っておこう)。

 この出来事は歴史上、「カカ・ボルケーノ事件」と呼ばれている。後には、汲めども尽きない「カカ・ファウンテン事件」、5日間溜め込んだ後の「カカの海事件」も発生する。子育てすると、否応なしにスカトロに馴染む。将来、べべさんが角界入りしたら、四股名は「かかの海」でいこうね。おばあちゃんが化粧まわしを誂えてあげるよ。

 これは一見すると悲惨な出来事だが、こういう事件があると間が持つ。だってー、おばあさまは英語を話さないし、妹さんたちは物静かだし、お母様は英語を話すけど、積極的に話題を振ってはくださらないし、こちらからは話題を選ぶのが難しいし(どこかに地雷があったらどうしようって探り探り、という感じ)。婿は場を盛り上げようというタイプではない。
 しかし、娘が一所懸命にフランス語でコミュニケーションを取ろうとしていることが、ご一行様に評価されたようで、それは嬉しい。

 翌日曜日、ご一行様はボルドー近郊のワイン・シャトー巡り。そりゃもうボルドーに来たら、そうなりますよね。午後、もう一回うちにいらっしゃるとのことで、婿がケーキを買ってきた。
 で、このときも「今から向かう」「道に迷った」「3分後に着く」との連絡で、こちらにとっては、おっとっと感満載。でも、連絡をくださるだけ、きっと気を遣っていただいているのだろう。
 みなで美味しくケーキを食べて、また会いましょうと言い交わして、和やかに解散した。私は翌日、寝込みそうだった。やっぱ緊張してたんだよね。

 私は自分のことを典型的な日本人だと思ったことがない。集団主義とかイエ意識とか、むしろ嫌悪感が強い(そのことと、日本に生まれたことに喜びを感じるのとは矛盾しない)。日本で、居心地の悪さを感じることもままある。
 しかし、海外に出ると、ああ、私は日本人なんだなあと感じる。やはり私たちは誰も、生まれ育った社会の規範から自由ではないのだろう。

 恐らく、私の中に、娘夫婦の結婚というのと、婿の育った家庭と我が家とのつながりというのが、切り離されていない状態で存在していたのだと思う。結婚式の招待状などでいまだに「○○家、○○家」みたいに書かれているのを、強い忌避感をもって見ているにもかかわらず、だ。
 だから、私は今回のイベントを、「両家顔合わせ」、なんなら「結納」とか「結婚式」とかと同じぐらい重たく受け止めていたのだ。実際にやったことは果物を買いに行ったことと、大笑いしながらボルカニックなカカを始末したことだけだとしても。

 当然ながらフランス人には、そんなイエ意識など微塵もない。きっと説明すれば頭では理解してくれると思う。ほら、ネトフリの「ブリジャートン家」だって、お家が大事じゃないですか。あれはイギリスだけどさ、西洋人にもちょっと前まではイエ意識があったと思うのね。でも、現代フランス人には、きっと感覚的なレベルでは理解してもらえないんじゃないかな。
 というわけで(?)、今回の義母様ご一行の訪問は、私に、自分の中の日本人を再認識させた出来事であった。あー、疲れた。も、お腹いっぱい。

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