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【私の年のせいなのか ここが日本じゃないからか171】12月(14)ケルン・アーヘン③
列車は、ベルギーのブリュッセルを通ってドイツに入り、アーヘン、それからケルン、終点はデュッセルドルフだ。ベルギーとの国境に近いアーヘンの駅で止まっているときに、ドイツ警察の制服を着た人たちが乗り込んできて、パスポートをチェックされた。長距離バスでバルセロナに行ったときは、国境を越えてもパスポートを見せることはなかった。今回も、ブリュッセルでは何もなかった。ドイツが厳しいのかな。
まだ20歳になるかならないかに見える、そばかすのお姉さんが、なかなかの重装備で、私のパスポートをめくった。写真があるページ以外も見ていく。いや、ほとんど白紙なんですけど。お姉さんがパスポートを返してくる。「めるしー」…おっと、私ってば、めるしーって言っちゃった。さんきゅーですらなく? 私、ドイツ語は出来ませんけど、フランス語は出来ますのよ、おほほ、みたいじゃん。違う違う、慌てて「だんけしぇーん」と言い直す。
ここから4泊5日、ずっとこんな感じだった。めるしー、ぱーどん、えくすきゅぜもあ、ぼんじゅーるが口から出てくる。残念ながらそれ以上のフランス語は出てこない。てへ。
ドイツに来て気づいたのだが、こっちの人はフランス人ほど挨拶をしない。フランスではお店に入るときに店員さんにぼんじゅーるを言うのは当たり前だ。エレベーターで乗り合わせた人、列車で隣になった人にも挨拶する。だから、私も挨拶の言葉だけは身に付いたのだと思う。
一方、ドイツ人は、私が慌てて「だんけしぇーん」とか「ぐーてんもるげん」とか「あうふう゛ぃーだーぜーえん(サウンドオブミュージック仕込み)」とか言い直すと、とても嬉しそうにしてくれる。さっきまでしかめっつらだったおじさんも笑う。
ケルンに着いたのは、予定通り午後3時過ぎだった。駅から外へ出てびっくり、目の前に大聖堂がそびえ立つ。名古屋駅から出たら大名古屋ビルヂング、ぐらいの距離感だ(分からない方は、是非名古屋まで来てください)。おお、これはこれは。一気に気分が盛り上がる。よし、宿に荷物を置いて、街歩きを始めよう。
予約した安ホテルは、駅からすぐ、つまり大聖堂からもすぐのところだ。Googleマップさんに教えられて歩く。あ、あそこだ。ホテルの前に3人の人が立ってるぞ。そのうちの一人はさっき同じ列車で降りた女性、あとのお二人は私より年配ぐらいの、ご夫婦だろうか。
近くに行ったら、カップルの男性に英語で話しかけられた。「ここのホテルに予約があるの?」「はい、まだ入れないんですか?」「うん、ほら」。指差された張り紙を見てみたら、スタッフの病気で、レセプションが12時から16時まで閉まってる、と書かれている。あと30分ぐらい、ここで待つしかないか。寒いけど、防寒はばっちりだから大丈夫だろう。
待ち時間はご夫婦とおしゃべりして過ごした。男性はドイツ人、女性はフィリピン人だそうだ。フィリピン行ったことある? はい、もう40年近く前にスタディーツアーで、旧日本軍の爪痕など見ました。あー、それはもう昔の話だよね(これは、加害者側が言っちゃいけない台詞だな。ドイツ人が言うのはどうなのか)。フィリピンの方っていうことは、カトリックなんですか? そうそう、僕たち、大聖堂のミサに出るために来たんだ。ミサって、誰でも入れるんですか? 勿論だよ!
結局、レセプションが開いたのは17時半だった。その間、待っている人は増え、妙な連帯感が生まれた。外で待っている私たちを見かねて、宿泊客が中からドアを開けてくれて、(ちょっとは)暖かいところで待つことが出来た。客室のある階に連れて行って、トイレを使わせてくれる人もいた。こういう気が回る人に私もなりたい。
18時前、ようやくチェックインできた。先ほど話していたおじさんが交渉してくれたおかげで、待っていた客は翌日の朝食が無料で食べられることになった。10ユーロのビュッフェ。ラッキー。
さあ、荷物を置いて、繰り出そう。