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はるばると 旅をしてきた 雲間からさす薄日 まだ短い影 足跡は残らない そのはるけさは 胸のなかに 刻まれている あなたがしてきた旅を わたしは知らない わたしの旅の中に あなたがいることを あなたが知らないように 生えぎわの白い髪 乾いた指の節を 少し 離れて見ている
ほころびを 繕うために 小さく運ぶ針 二本取りのあかい糸 どうしても 曲がってしまう縫い目 ほんとうに この色だったのか 灯りを落とした部屋 梅の花が匂う 目を合わせぬように たどたどしく 繕われたほころび 冷えた指さきで あかい糸を切る