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詩とおもう(乞いと逢い)

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惚れた腫れたです。
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2019年1月の記事一覧

届ける(2018.9.30)

手は届く だけど そのままにしておく 声は届く だけど 黙っている 届けなければ ずっとわたしのものだ 届けてしまったら それが あなたの手の中で どう溶けていくのか あなたの耳に どう流れ込むのか わたしには どうすることもできない それを 恐れているのか 待ちかねているのか 届けなければ ずっとわたしのものだけど ずっと誰にも届けなかったら 見えない服とおんなじ 見えない服のボタンを外して ただのはだかになったとき いびつなわたしを あなたの目が 照らし出す それを 恐れ

海を走る(2018.10.23)

時には走ることを思い出す 体が重いのは重力を感じているから そんなごまかしばかりが上達して からだなりのひととなり 「足音を立てない」 と教えてくれた人 あの時息が上がっていたのは 下手な走りのせいばかりではなかったと 今なら白状できる 本当のことを言ってもいい とは教わらなかった 凪いでいた海に 自ら飛び込んだのだ 溺れるのが嫌なら 泳ぎ出すしかない 顔を上げて泳ぐ 顎を引いて走る 息を吸う 息を吐く 息が上がる 息が切れる 「足音を立てない」 と教えてくれたあなた

コート(2018.12.10)

低く低く 雲の裾と 呼応するまぶた 化学繊維のコートに 易々とくるまった 骨の奥では 粛々と 明日を削りとる 音がしている いつか 晴れ渡り あの雲が 消える日が来たなら コートではなく あなたにくるまる 静電気の起きない あなたにくるまる サイズの合わない あなたにくるまる

やさぐれ(2018.3)

どこにいたって同じ空だと思っていた ひどく凪いだなぐさめだ ひとつの地球だなんて わたしの手にあまる せいぜいひじから先を伸ばしたあたり 身を振り絞ったところで 蝶の羽ばたきにも及ばない わたしだとか あなただとか だれかだとか そんな区別のない生きものならよかった けれど 手にあまるからだに こころがしまわれているから どうしたって わたしや あなたや だれかだから けなげに身を振り絞って ひじから先を伸ばしたあたりの となりに並んで空を見上げる