アーティストとしての自分を振り返ってみる(1)
かなり間が空いてしまいましたが、、、、やっていることが多岐に渡ってしまい、何がしたいのかよくわからなくなってしまったので、とにかく書いてみて、自分との対話として客観視してみるシリーズ第三弾。
自己紹介でも書きましたが、三つの草履を履くようにイラストレーター、デザイナー、アーティスト、として仕事をしています。
これまでの記事(イラストレータ編&デザイナー編)はリンクからどうぞ!
今回は、アーティストとしての自分のこれまでを振り返ってみますが、色々と長くなるので、数回に分けて書こうと思います。
アートとの出会い
つくる道へ進む転機になったイギリス留学時代、最初の頃はアートについてほとんど知識はありませんでした。(ダミアン・ハーストすら知らず、それ誰?って聞いてしまったレベル…)
美術館がほぼ全て無料という恵まれた環境で、美術館やギャラリーに足を運んだり、現代アート専攻の友人ができたりするうちに、アートってこんな自由なの?!と魅了され、作品やアーティスト、歴史などについて読んだり調べるようになりました。
例えば、衝撃的だったのは、トラファルガー広場のThe Fourth Plinth Commission。この広場は、かつて政治演説やデモに使われたり、偉人たちの銅像が並ぶ有名な広場なんですが、そこに、一つだけ銅像がのっていないカラの(かつて台座を造ったものの彫像にかける予算がなかった)「第4の台座」があります。そこに、約2年おきに、選ばれた現代アーティストのコミッションワークが鎮座するというプロジェクトが1999年から現在まで続いています。
私がロンドンにいた2009年のアーティストはアントニー・ゴームリーというイギリス人の彫刻家でした。人型の作品を数多く制作している芸術家なのですが、この広場での作品はなんと生身の人。1日24時間、100日間連続で、応募から選ばれた2,400人が誰でも第4の台座に上がり好きなことをして良い、One & Otherという作品でした。
台座の上で、パフォーマンスをしても良し、ただ本を読むだけでも良し、なんでもありです。当時、私は、そこまで作品の意図も理解できてなかったと思いますが、発想の自由さやスケールの大きさ、そして第四の台座自体の面白さに衝撃を覚えた記憶があります。
今振り返ると、その広場の歴史、政治的な意味合い、アーティストでない一個人が台座に上がること、非日常性などなど、もっと沢山のことが見えてくるのですが、そういう「知れば知るほど理解が深まる」みたいなことも、アートの面白さ、奥深さだなと思います。
イラストレーションを専攻する
そんなこんなで、アートというものの存在に興味が湧いたと同時に美大へ入学します。実は、働いていた会社を一時休職し、空間デザインを1年間勉強する予定でイギリスに来ていたのですが、デザイン以外の世界の広がりに興味を持ち始めた為、会社を辞め、すでに入学許可をもらっていた空間デザインコースを辞退して、進路変更する決断をしました。
やってみたいのは、空間デザインではないかもしれない、という直感と、自分の手を動かして何かを作ったりするのが楽しい、という感覚はありましたが、具体的な進路は見えていない。そのため、学部一年目にあたる、ファウンデーションコースという一年の基礎課程へ進学することにします。周りは学部一年生の年齢なので、19歳とか20歳。当時私は29歳でしたが、同じコースの留学生には60歳の女性なんかもいて、年齢に縛られず学んだり、新しい道に進んだりできる環境にも後押しされたと思います。
このコースは、最初の半年くらいで色々な分野を試して、学部専攻を選ぶ1年間の課程です。私は、ファインアート、イラストレーション、グラフィックデザイン、テキスタイルデザインなどを試してみて、最終的にファインアートと迷って決めたのがイラストレーションでした。
ファインアートにも興味はあったものの、なんだかまだ解らない部分も多かったのと、イラストレーションの定義には描くだけでない広がりもあったのが大きな理由です。イラストレーションは主に平面での表現ですが、私が学んだ学校では、いわゆるイラストやドローイングだけでなく、立体物がリファレンスとして紹介されることも少なくありませんでした。
実際、平面課題はそんなに得意でなかったですし、描くことが好きという理由だけではなかったと思います。課題の中で、紙という素材に興味を持って、色々作り始めていたこともあり、平面だけでないイラストレーションを深掘りしてみようと、紙の造作とイラストレーションを組み合わせた作品をつくり始めました。
一年の最後には、最終課題として、独自のプロジェクトを行います。
私は、子供の頃に空間を使って遊んだ記憶(天井を床に見立てて想像したり、テーブルの下に基地を作ったり、タイルの目を踏まずに歩くなど)から、空間を使った遊びを元にしたゲームキットHide and Seekを制作しました。
空間に紐づく好奇心と恐怖心を組み合わせ、2パターンのセットを組むことができます。
ルールは双六っぽいことを想定して、でもがっちりルールは作らず、子供の時のように自分で組み合わせてルールを作って遊んでください、という作品です。
紙のパーツは全てフラットになり、木のブロックと合わせて、小さな木のスーツケースに収まります。
(アンティークマーケットで購入したスーツケースを、バスに置き忘れて、バスの後ろを全力疾走で追いかけたのも、忘れられない思い出です…)
アイデアデベロップメントや制作の課程も大きなスケッチブックにまとめました。(以下のリンクから全ページ見られます)
課題としては、最優秀のDistinctionという評価をもらえ、選考に残った優秀作品として、ロンドンのビクトリア&アルバート博物館での展示にも参加することができました。実は、このスケッチブックと作品を合わせて購入したいと学校からオファーも受けましたが、かなりの熱量を注ぎ込んだものだったので、辞退させていただきました。今は手元においてあるだけで、人に見せたりする機会もないですが、自分の中である意味入口となった作品となったので、売らなくてよかった…と今でも思います。
大学院へ進学
ファンデーションコースで優秀な成績を収められたといっても、年齢分下駄を履いているので、当然といえば当然です。もちろん、崖っぷちの気持ちで、寝食忘れてものすごい頑張りましたが…。
ファンデーションコースのあとは、周りはほとんど学部へ進学しますが、私は既に30歳。もっと勉強したいけど、3年間の学部に進むには時間もお金もかかる…と悩んでいた時に、先生から大学院に行ったら?とアドバイスをもらいました。
私は日本での大学専攻は国際学だったので、大学院の受験資格はないと思っていたのですが、ファウンデーションコースでも良い成績を収めたし、人文系の学位を持っているからと背中を押され、大学院を受験・進学することに。大学院もイラストレーションを専攻しますが、色々な影響を受けて、作品はすこしアート方面にシフトしていくことになります。
次回は、大学院での作品の変化や気づきなどについて書こうと思います。