交渉できひん奴はアホや?!
幼い頃から父親に言われ続けてきたことがありました。
「交渉できひん奴はアホや」
あ、みなさんに最初に断っておきたいことがあります。
「アホ」という表現は“けなす”時に使うものと思われていますが、実際はけなしているわけではありません。褒めているわけではないのは明確ですが、さげすんでいるわけでもないのです。
「アホ」にはそれなりの愛情がこもっているわけで、本当にダメな奴には声もかけないし、なんだったら無視するというかスルーするので、「アホ」と呼ばれた時にはまだマシだ、ということになるのです。
まぁ、私の勝手な解釈かもしれませんが。。。
とにかく、私は幼い頃から父親には「交渉できない人」=「人間としてダメな人」として育てられました。
「なんでそんなこと言うの?」
一度、父親に尋ねてみたことがあります。
父は満面の笑みで答えました。
「交渉には全てが詰まってる」
ある日、両親と一緒に買い物に出かけました。
その頃はまだ駅のまわりに商店街(と呼べるほど大きな物ではありませんでしたが)があり、その中の薬局でシャンプーを買うことになりました。
「お母さんが見本を見せるから、よう見ときや」
母は何のことかさっぱり分からず、一瞬ちょっと面食らった顔をしましたが、父がいつも言っている、交渉をしろ、ということだと理解し、コクリと頷き薬局に入って行きました。
「よう見とけよ」
父と二人でそうっと薬局に入り、入り口近くで母の行動を遠目で見守っておりました。
その日、特売日で、当時うちの家族が愛用していたシャンプー、メリットが、2本で買うとお得な、いわゆるまとめ買いするとお得なアイテムになっていました。
2本買うとお得なのに、母は3本手に取り、ニヤニヤしながらレジに向かいます。
「これ、2本であの値段やったら、3本ではいくらになります?」
母の言葉を聞いて、私は思わず「はぁ〜?!」と叫びそうになりました。
いや、私が叫ばなくてもお店に人は既に叫んでいました。
「はぁ?」
そうよね、そうですよね。
あの値段、2本でいくらってことですよね?
本来ならば、3本目は普通の値段ですよね??
「3本買ったらもっと安くなりますか?」
カウンターに置いた3本のメリットを、店員さんに近づけながら母はすごみます。
1本だけでなく、2本も買わなければならないとはいうものの、既に結構お値引きされているのに、なんで更に値引きしようとするかなぁ。
私も、もちろん店員さんも思いました。でも母は引きそうにありません。
根負けした店員さんは、ほんの少しですが値引きしてくれ、私たちはその薬局を後にしました。
でもね、3本もいります?!
まぁ家族みんなで使っているものとはいうものの、安くなったからといってそんなにいっぱいいります??
交渉をする必要性を教えようとした父ですが、私には交渉する必要性を感じさせない出来事でした。
でもね、そういうことを日常的に見させられると、交渉してなんぼ、というのが身についてくるものなのです。
仕事をするようになった時、身にしみて感じたことがありました。
私、交渉うまいかもしれない。
例えば、インタビュー。
普通ならば絶対にインタビューを受けてくれない人にでも、大体了承してもらえました。
外から固める、ということもしましたし、本人がこのサブジェクトならインタビューに答えてくれるだろう、など、考えるのが楽しくて仕方ありませんでした。
そして最近ではこんなことがありました。
ちょっとしたミスを見つけ、みんながパニクっていた時、私に連絡がありました。
私は先方に、起きたことを正直に話し、今後の対策を話したところ、「こちらのミスなので構いません」と笑って何事もなかったようにその話が終わり、先方は次回のことについて話し始めたのです。
その光景を見た周りの人は驚いていたのですが、私としては、こちらには非がないので先方にどうやって納得してもらうか、というのを考えました。
こちらには非がなかったとはいうものの、気が付かなかったことはこちらのミスなので、正直に気づけなかったことに謝りました。
先方の口調に合わせ、何をどのタイミングで言えば心象を悪くしないのか、考えながら話します。
それらは、幼い頃から父親の交渉術を見ていて学びました。
やっぱり交渉術って必要よね、なんて思っていたのですが、知人から衝撃の話を聞きました。
彼女は最近あるフェアに参加しました。
終了5分前になって人がやってきたそうです。
もう終わるのになぁ〜、と彼女は思ったそうなのですが、無下にも出来ず対応しました。
すると、彼らは彼女に向かって満面の笑みで言いました。
「ベストプライスでお願いします」
彼らは中国系の人たちでした。
「上海を思い出した・・・」
彼女は下を向いて苦々しく言います。
終了間際なので、残り物を安く売るのは当たり前でしょ?という根性。
ちなみにナマモノではありません。
値切ることなんて、常識では絶対にあり得ないものでした。
それでもやっぱり交渉してくるのです。
彼らももしかしたら、幼い頃からこう言われていたのかもしれませんね。
「交渉できひん奴はアホや」
そう言えばこんな話もありました。
夫が教えている生徒の中に中国人がいました。
夫は彼に“B”をつけたらしいのですが、数日後その彼が夫のオフィスにやってきて言ったそうです。
「僕は“A”のはずですけれど」
夫は驚いたそうですが、彼がなぜ“B”だったかを説明すると、何も言わずにオフィスから出て行ったそうです。
「彼は言いたかっただけなんだろう」
それが夫が出した答えです。
とりあえず言ってみるのが中国系の人たちの文化であって、それが本当に交渉しようとしているわけではないこともあるのかもしれません。
結局、件の彼女は少しだけ割引をして売ったそうです。
「時間もなかったし、東京に送り返す送料考えたら、もういいかって思っちゃって」
このことをドイツ人の友人に話をしたところ、彼女は「そういう時は明言せずに、笑って済ませればいいのよ」とアドバイスしてくれたそうです。
私は交渉は好きですが、交渉されるとかわせないところがあります。
交渉されたら揺らいでしまいます。
交渉する術も、交渉をかわす術も、持っていたいな、なんて思った今日この頃ですが、みなさんはどう思われますか?