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世界累計発行部数・1億部突破っていうのは伊達じゃない ~パリにて~

今から6、7年ほど前のことです。
パリにちょっと長く滞在しようと、週貸しアパートを借りることにしました。
オーナーが良い人で、朝早くパリに着く私たちを、
「うちの掃除する人を行かせるから、朝早く来ても大丈夫だよ」
と言ってくれました。

掃除の人が私たちを待ってくれている。
どんなおばさんがいるのだろうと思いながらアパートに着くと、アジア系の男の子が私たちを迎えてくれました。
リビングのテレビがついてました。
テレビの画面をのぞき込むと、アニメで巨人が映っていました。

もしかしてこれ、『進撃の巨人』?!

漫画もアニメも観たことはなかったのですが、話は聞いたことがあります。
巨人が現れて、人を食べる物語だ、と。
(あ、そんな簡単なことだけで終らせてすみません)

日本ではとても人気があるとは聞いていましたが、フランスでも?!
テレビの音に耳を傾けると、言っている意味が分かります。
あれ?私、フランス語こんなに理解できるんだっけ?
そう思ったのも束の間、日本語でした。

なんで日本語?

彼と意思の疎通を図りたかったのですが、彼は片言のフランス語しか話せません。
夫が話すことを少し理解できるようです。質問にゆっくりと答えますが、とぎれとぎれ。なので夫が彼の言ったことを反芻して正しいか確かめる、ということを繰り返し、会話を成立させておりました。

聞くと、彼はベトナム人で、留学生としてフランスにやってきました。
ベトナムはフランス領だったこともあるので、フランスに来たいという人はたまにいます。
お金が必要なので、掃除のアルバイトをしているようです。
フランスにやってきて間がないので、フランス語を勉強中ですが、日本のアニメが好きで、今日もこうして『進撃の巨人』を観ています。

でもこれ、日本語じゃない。

私の拙いフランス語を理解し、ニコリと頷きます。
分かる、と言うので、日本語が分かるのかと思いきや、漫画で事前に読んで内容は知っている、のようなことを言っています。

再度言いますが、彼は片言のフランス語しか話せません。
英語はもっと話せません。

なので、講談社の皆様、ここで質問です!
7年前にはベトナム語で翻訳された漫画が発売されていたのでしょうか?
それとも彼は、フランス語で読んでいたのでしょうか?
そして、なんであの時フランスで日本語のまま放送されていたのでしょうか~??

彼は日本の漫画が好きだと言い、日本語もいつかは学びたい、と言いました。
いやその前に、あなたはフランスに留学しに来てるんだから、フランス語だよね。
フランス語を習得したあとに日本語・・・。

君の前には途方もなく、長い長いイバラの道が続いているよ。

いろいろ言いたいことがありましたが、私も彼も片言のフランス語なので、「ボン クラージュ(頑張って)」とだけ言っておきました。
日本人の私に励まされて、彼も嬉しそうでした。

とにかくそれが、初めて『進撃の巨人』を見た時でした。
ベトナム人の彼が知っていて、日本人の私が知らないのはまずいのではないか、と思い、GYAO!でイッキ見しました。

時は経ち、4年前のことです。場所はまたパリ。
コンコルドの駅で、地下鉄に乗ろうとプラットフォームを歩いていると、プラットフォームの端の階段を飛ぶように軽やかに走ってくる三人の女の子たちがいました。
みんななんだか楽しそうです。
三人とも同じパーカーを着ています。

お揃い?!

ふと、彼女たちの背中を見ると、盾に2枚の翼が重なった見覚えのあるエンブレムが。

それって調査兵団のじゃない!
あなたたち立体機動装置を装着したつもりで、軽やかに走ってたの?

私、いつもあの言葉を言われるたびに、すごいなぁ~、って思っていたのです。
「心臓を捧げろ!」
重くないですか?
まぁ、同じ意味なのに、「命を捧げろ!」というよりは軽いかもしれませんが。
そんな言葉を言えるのは、ジハードを信じるイスラム過激派の人だけじゃないかと思っていました。
でも目の前にいるのは、かわいいフランスのティーンエイジャーたちです。
彼女たちも心臓に拳を当て、「心臓を捧げろ!」とか言っているのかしら、などといろいろ想像してしまいました。

フランスのニュースでは、自爆テロのことを「カミカゼ」と言っています。
第二次世界大戦中の「神風特別攻撃隊」からとっているのでしょうが、そもそもカミカゼは・・・、と言いたいところですが、きっとフランス人には理解してもらえるとは思えないので辞めておきます。
津波を見て日本人が「ツナミ」と言ったことから、地震の後打ち寄せる波のことを、世界中で「ツナミ」と呼ぶようになりました。そもそも他言語では「ツナミ」を表現する言葉は存在しなかったからです。そんな風に、自らの命を犠牲にして攻撃を与えることを、「神風特別攻撃隊」からとって「カミカゼ」と呼ぶことにした、ということなのでしょうか。

「カミカゼ」のように死にに行くわけではないですが、巨人を駆逐するために死を恐れず戦う調査兵団の人たちはカッコイイと思われているからこそ、調査兵団のエンブレムがついたパーカーを着ている子がいるのだと思うのです。

フランスは、今では無神論者が多いのですが、カトリックの文化や思想が根強く生活にしみついています。
正しいことは正しく、間違っていることは許されることではない。
なんとなく、そんな風に思っています。

巨人という人類の敵を完全に駆逐するのは正しいことで、そのことにきっとフランス人たちは共感していることでしょう。
でも、このファイルシーズン。ちょっと毛色が変わってきています。

「その正しいは、誰にとっても確実に正しいことなのか?!」という質問を突きつけられている気がします。

移民が多く住み、特に最近モスクでいざこざが目立つフランス人たちは、このファイナルシーズンをどう受け止めるのだろう、と興味津々です。

『進撃の巨人』が、フランスの若者に一石を投じることができるなら、とっても“ええじゃないか”と思うのです。

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