ライオンシティ

今日から4日間シンガポールに行く。
仕事でワークショップをしに行くのと、ワークショップ前日に開催されるバトルに出場するためだ。

海外経験はそこそこあるものの、一人で海外に行く時はいつも不安である。
家の鍵閉め忘れてたらどうしよう。何かミスをして飛行機に乗れなかったらどうしよう。貴重品をなくしたらどうしよう。

根拠のないたくさんの不安が頭をよぎる。この時はいつもかなりクリエイティブになり、小さなことでも不安に感じてしまうものだ。(このクリエイティビティをダンスの時に発揮したいものである)

特に最近はコロナ関係で必要確認事項が増えていたりするのでなおさらである。

今日は5:00に家を出た。

早朝だし電車は人が少ないだろうと思っていたのに新宿行きの京王線はまあまあ人がいることに驚く。私は午前10時を早朝と呼ぶほどの女なので、こんな時間から仕事に向かう人々の存在に痺れた。

成田空港行きスカイライナーのホームは、スーツケースを持った人々が列をなしていた。
乗客の大体が外国人か、フライトアテンダントらしき人だ。

指定席に座っていると、おそらく中国人であろう男性がチケットを見せながら話しかけてきた。

中国でよく見たN95のガチマスクに、両手には感染対策であろうビニール手袋。
そしてなぜかリュックのペットボトルをいれる網のところに髪の毛の染め粉をつめこんでいた。それも両サイドである。
出立ちもなかなかパンチがあったが、非常に挙動不審で、自分の座席番号に私が座っていたことにかなりうろたえている様子だった。

「あ、席、、ここ、、」

彼の見せてきたチケットは確かに私が座っている席の座席番号ではあったが、号車が違っていた。今いるのが3号車で、彼の席は2号車だ。

日本語が拙そうな彼に号車が違うことをゆっくり丁寧に伝えると、彼は不安げな様子から一気に笑顔になって、ありがとう!と手を振りながら元気に4号車の方に向かっていった。

あ、そっちは逆や。。と思った頃には彼の姿はなかった。

まぁ号車の表記は車内に大きくかかれているし、すぐ気づいて引き返してくるだろう。外国人とはいえ彼も立派な大人だし。と思って追いかけることはやめた。

私がすっかり彼のことは忘れて 5分ほどのダンス動画を3つくらい見終わったころだろうか、 
相変わらず染め粉を詰め込んだ大きなリュックをしょった彼が謎の笑顔で通路を「逆やったわ」というような見事なテヘペロ顔で横切った。

15分間4号車でなにしてたんや、、、

それ以来彼に懐かれてしまったのか、彼は電車が成田空港第二ターミナル駅に着いた時に再び現れ、また不安な様子で話しかけてきた。

ここで降りる?!と焦った様子で聞いてきたのでいや、君がどこで降りるとかしらんけど、、、と思いながらも彼のチケットを確認すると第一ターミナルだったのでまだだよと教えてあげた。

安心した様子の彼は第一ターミナルから降り立つ時人混みの中でこちらを振り返り満面の笑みと、グッドサインをこちらに剥けてきたので、私もグッドサインで返した。

不安だった1人海外も、私以上にやたらテンパっている彼に出会えたことで少し不安な気持ちが安らいだ。
自分よりホラー映画を過度に怖がっているひとがいるとあんまり怖く感じなくなるみたいに。

ホームで小さくなっていく彼の後ろ姿を見て、頑張れよ〜と思った。

空港に着き、チェックインの列に並ぶ。
私の前には大学生らしき男の子5人組が並んでいた。
彼らは渡航前のPCRテストの証明書と、ワクチン接種証明書を互いに確認しているところだった。

シンガポールは2回以上ワクチンを接種していれば入国前のPCRテストなしで入国できる。
しかしワクチンの証明書は英字で発行しなければならず、その発行のためにはマイナンバーカードが必要なのだ。

つまり、ワクチンを接種していてもマイナンバーカードを発行していなければ、別途で証明書を発行し直すか、PCRテストが必要なのである。

大学生グループのうちの1人は、そのパターンだったらしく、PCR検査が15,000円もしたことを嘆いていた。

すると遠くから、大学生グループの仲間であろう男性がトボトボ歩いてきた。それをみて他のメンバーはクスクス笑っている。

どうやら彼は、ワクチン証明書も持っていなければ必要なPCRテストも受けていなかったようだ。

渋いわぁ、、、と言いながらシリアスな表情をする彼をみて、仲間達はあまり心配する素振りもなくケタケタ笑っていた。

多分このままやったら、旅行キャンセルか、、まじやらかしてんなぁ、、と私も他人ながら彼に同情した。

しかし明日は我が身。という感じで自分もどこでやからすかわからないので、
染め粉中国人に一度弛まされた緊張感が再び呼び戻されたのだった。

彼がその後どうなったのかは分からない。なんとかなってシンガポールを楽しめてますように。

シンガポール到着までは、意外にもなんのトラブルもなく非常にスムーズだった。

私が利用したスクートというLCCの機内は、アナウンスのBGMがなぜか殿堂入りポケモンの音楽で、そしてなぜかいきなりレインボーの証明が機内を包み込みCA達が謎のダンスを踊り出すというかなり攻めた航空会社だった。

CAのダンスはグダグダすぎて本人もわろてもうてた

CAはおそらくシンガポール人で、ここで早くもシングリッシュの洗礼を浴びる。(なまりと早口でまじで何言ってるかわからない、私の英語力が乏しいのもあるけど)

機内では、隣の席の大学生グループ(さっきとは別の子達)が、グー、チョキ、パーを表情で表現し、それを自撮りしたものを同時に出すという非常に斬新なじゃんけんをしていて感心した。私も今度飲み会とかでやりたい。

6時間半のフライトは結構あっという間だった。

シンガポールに着いて最初にした事は、ヒートテックを脱いで、フリースの上着をスーツケースに詰め込む作業である。

シンガポールには冬がない。 

現在日本はダウンが必要なほどの気温だが、シンガポールは基本半袖でいける。(半袖でも汗ばむぐらいだ)

だからシンガポールに住む人は冬服をほとんど持っていないし、店にも冬服はあまり売っていないらしい。

日本に四季があることは当たり前じゃないんやな。ということにベタだけど結構びっくりした。

海外に行く事の素晴らしい点は、さまざまな「常識」に触れることができることだと思う。

いろんな価値観や文化に触れることで、自分の環境や考え方があたりまえの常識ではないんだということに気付く。それは実際に体験しないと実感できないことだと思う。

色んな価値観を理解して体験することで人は他人に対して寛容になれるし、優しくできるようになる。だから経験値の高い人は落ち着きがあるし、魅力的だし、やはり経験が人の深みを作っていくんやなと感じた。

"意外とがっかり"観光スポットと聞いていたマーライオンも、私は全然がっかりしなかった。むしろすごく感動したしその周辺の夜景も、本当に素晴らしくて、かなりエンジョイできた。

マーライオンとマリーナベイサンズ

これも実際に体験しなければ分からなかったことだ。やっぱり自分で実際に経験することは大事!

日本出国からシンガポール1日目まで、特にトラブルなく信じられないくらいスムーズだったが、やはり神は試練を与えがちな存在である。

バトルの一次オーディションを踊り終えた私は、"まぁまぁヤバめ"の肩の痛みと闘っていた。

私は左肩を2,3年前から何度も痛めている。私のダンスはめっちゃ肩を使うので、疲れが蓄積してる時やウォームアップが十分でない時に、時々やってしまうのだ。

ウォームアップはしたはずだけど、連日の疲労と、ロングフライトと、バトルの力みでか、久しぶりにやってしまった。

この肩痛が発動すると、首を動かすこともままならなくなる。ましてロックダンスなんて絶望的である。

決勝までいけたら少なくともあと7ムーブはしないといけないし、明日は2本ワークショップがある。まじで終わった。。。と思った。

幸いバトル会場からホテルが近かったので一度部屋に戻り湿布をゴリゴリに貼ってロキソニンを飲んで会場に戻った。

会場では常にマッサージとストレッチを続けていたが、二次予選の直前まで首を動かすと発動する顔をしかめたくなる痛みに襲われていた。

でも踊るしかない。
とりあえず頑張って踊った。
 
しかし不思議なことに、二次予選を踊り終えた頃には薬の効果きマッサージの効果か、アドレナリンか、よく分からないけどかなりマシになっており、違和感はあるものの踊れるレベルには回復することができた。

中国での経験もあってかかなり逆境を乗り越える力は育まれていたのかもしれない。そのまま優勝することができた!

神は試練与えがちやけど、必ずその先にご褒美も用意してくれてるのである。

とはいえ怪我にはマジで気をつけなあかんな、とすぐ整骨院の先生に予約のLINEを入れたのであった。

シンガポール3日目。今日はワークショップだ。

今回ワークショップの為に呼んでもらったことはとても嬉しかったけど、正直、私のワークショップに人が集まるのか結構疑問だった。

わざわざ呼んでもらったのに全然人が集まらなくて赤字になるなんてことになったら申し訳なさすぎる。

しかもオーガナイザーは当日の朝もまだ定員まで空きがあるよ!と告知を上げていたので、さてはあんまり集まってへんのちゃうかと思っていたが、ワークショップ会場に着いてなるほどなと思った。

そこはダンススタジオではなく、かなり広大なイベントホールだった。多分100人くらいは余裕で入れそうな大きさである。

しかも参加人数は60人だった。

普段の自分のレッスンで多い時でも30人くらいなので、かなりの人数に圧倒された。飛行機で7時間もかかる異国の地で、自分からダンスを習いたいという人が60人もいるなんてなんか不思議なかんじだった。

みんないいキャラしてた

しかも嬉しかったのが、ロックダンスのクラスじゃなくて、リズム&グルーヴのクラスをやってほしいと言われたことだった。

リズム&グルーヴクラスが正確にどういうクラスかという定義は難しいけど、、

私は大阪で"グルーヴ"と名のつくクラスをずっと受け続けていて、自分がダンスの中で一番大切にしていることはほとんもそこで学んだことだなぁと常々感じていた。

だからロックダンスじゃなくてリズム&グルーヴのクラスをお願いされたことは自分にとってかなり意味あることだった。

聞くと、シンガポールのロックダンサー達はロッキングのスキルはある程度あるものの、ミュージカリティなどのダンス力はまだまだ高くないので、私を呼ぶことでその部分を向上させてほしいとの事だったらしい。

もちろん私は自分の師匠の足元にも及ばないくらいまだまだだけど、自分の大切にしていることを感じとってもらえたことは本当に嬉しいことだった。

余談だけど、
リズム&グルーヴのクラスでマライヤキャリーのエモーションズという曲で振り付けをして、
その後2本目のクラスでたまたま最後の最後にかけた曲が中原めいこのエモーションという曲だった。
ただの偶然だけどこれにもなんかグッと来た。

シンガポール4日目。
早いものでもう帰国である。

地味にずっと心配していた帰国前のPCR検査も見事陰性だった。(中国渡航のnoteを読んだ方はわかると思うが、私はPCR検査恐怖症である)

帰りの飛行機で私は、シンガポールに来る前に読んだオードリー若林さんのエッセイの一節を思い出していた。

若林さんは、2008年のM-1後次々に舞い込んでくる自分の実力以上の仕事を毎回必死にのりこえていく状態のことを、ジェットコースターに乗ることに似てると表現していた。

これはかなり秀逸な例えだなと思った。

乗る前は、怖い。
ジェットコースターに乗りたくて遊園地に来たのに、直前になるとこんなもの乗りたくないと思う。

しかし勇気を出して乗ってみると爽快で、気付いたらまた順番待ちの行列に並んでいる。

その様子が、大きな仕事を乗り越えている感覚に似ているという。

まさしくダンサーとしての挑戦も同じことが言えるなと思った。

海外でダンスの仕事をすること。海外のバトルで結果を出すこと。これは私のダンスをする上での大きな目標でありモチベーションであり一番やりたいことである。

しかし、目前になると怖くなる。
私の一番やりたかったことはこんなにも辛いことなのか、、??と思うし、こんなしんどいことをなぜ好き好んでやっているんやと思ったりする。

でも一度始まってしまえばジェットコースターみたいにエキサイティングで、乗り越えた後は素晴らしい爽快感や達成感を得ることができる!

そして気付けばまた列に並んでいるのである。

海外に行くとかたいそうな事だけじゃなくて日常の小さなことでもこういう事はたくさんあると思う。

はじめてダンスレッスンを受けに行く、とか。入りにくそうだけど気になる店に入ってみる、とか。

サウナも、温度差があるから気持ちいい。
ぬるいサウナにぬるい水風呂では到底整うことはできないのである。

いろんな人生に対する価値観はあるけど、
私は自分の人生の中で整う瞬間をたくさん増やしたいなと思った。

色んなことを考えせられた、素晴らしい4日間だった。(完璧なケアをしてくれたシンガポールのみんなに感謝)

日本に着くと、シンガポールの暑い気温と打って変わってめっちゃ寒くて、凍えながら帰った。ほんまにサウナやん。と思った。

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