#17,#18 家族の機能⑤⑥「やすらぎの場」機能概観
システムとしての家族は、「構造」と「機能」をもつ。機能は、対社会に対する機能と家族がそれらの機能を果たすために必要な内部の機能状態がある。
対社会に対する機能で外せないのは「子どもの社会化」と「やすらぎの場としての機能」。今回取り上げるのは、大人の情緒的安定化をはかる「やすらぎの場としての機能」
安らぎの場としての機能を4つの視点から取り上げる。
1 人々の家族に対する期待
2 ストレスの生成装置としての近代家族
3 なぜ家族という場がストレスの源泉となるのか
4 家族がやすらぎの場であるために必要なこと
1 人々の家族に対する期待
1)統計数理研究所(5年ごと)国民性調査より
一番大切なものを自由回答でひとつ答えてもらう
「家族」と答える人 → 1950年代は約1割 1970年代から顕著な増加傾向
滅私奉公からマイホーム主義へ。2003年から約半数、以来横ばい。
家族を大切に思う国民意識が見受けられる。
2)国民生活に関する世論調査(内閣府)より
昭和33年から毎年実施
家庭に求める役割は何ですか?
2017年「家族のだんらんの場」65%、「休息・やすらぎの場」61%、「家族の絆を強める場」50%
「家族の絆を強める」が増加傾向
家庭を築くことへの積極的な姿勢の表れか?
多くの人が家族にやすらぎの場の機能を期待している。
家族をつくれば、自動的にこのような期待どおりの場になるか
家族はそのような場を果たしえているのか?
2 ストレスの生成装置としての近代家族
1)3大ストレスフルイベント(1967年 トーマス・ホームズら)
衝撃の大きさ マグニチュ-ド
①配偶者の死 100
②離婚 73
③夫婦別居 65
https://www.niph.go.jp/journal/data/42-3/199342030005.pdf
2)家族にはストレスがつきもの
(1)家族の発達的危機
結婚し出産、子育て、子どもの巣立ちというライフイベント自体が、危機を招き得る。
家族を生きるということは、繰り返し生じる変化に対応するという営みの連続体。
そしてそれは、常に危機と背中合わせ(発達的危機)
(2)社会問題と家族の危機
育児不安・負担/夫婦の不和 離婚率の高止まり/DV/介護負担/ひきこもり/ヤングケアラー。
ダブル介護/8050、9060問題/中高年シングル介護/毒親問題
殺人事件の約半数は家庭内
「やすらぎの場」どころか、殺人事件の現場にもなり得るのが家族
3 なぜ家族という場がストレスの源泉となるのか
(1)家族に求められる役割が増大する一方で社会的なサポートが追いつかない現状
近代家族誕生以降、家族、特に母親に育児が集中する現状(母性強調の世論)
近年の共働き世帯の増加、時間的、体力的、精神的に余裕のない生活
医療技術の進歩、長寿社会、介護期間の延長、寝たきりの方の1割以上が10年以上の介護期間(厚生労働省 国民生活基礎調査)
コロナ、コミュニティの崩壊
(2) 家族内では境界が見えなくなりやすい
母子密着と父親不在を招きやすいという構造的特徴
コントロールしたい母親と自由を求める子の葛藤
居場所がない父親 仕事の疲れをいやしてくれる場として機能しない現状
(3)「愛情」に紐づけられた役割
家事・育児、介護、仕事は愛する家族のためであり、そうしない人は「愛情」のない人と解釈される現状
自らの役割を否定することが難しく、社会も容認しにくい状況
→家事・育児に熱心な母親は「良い母親」、子煩悩な父親は家族想い
→自己犠牲を強いるメカニズム
(4)家族責任論が強すぎる日本
家族内のことを外部の漏らすのは恥
問題を起こせばバッシング
相談につながりにくい現状
4 家族がやすらぎの場であるために必要なこと
①家族というものの実像を知る
②家族をともに育てていくという価値観の共有・合意
→これからの夫婦は、恋愛から合意愛へ
③多様なストレス戦略(コーピング)をもつ
自分たちのリソースを動員、評価、調整
外部のリソースの導入
→メタ認知の大切さ
→母性強調から親役割の分担
・ジェンダー意識の見直し
・家庭人としてのスキルアップを目指す家庭教育
④家族の生命線としてのコミュニケーションスキルの向上
⑤社会システムの変革
家庭内での固定的な役割分業を歓迎し続けてきた起業社会や社会福祉・社会保障制度の変革
まとめ
1.人々の家族に「やすらぎの場」を求める期待感は依然強いものがある
2.現実は、家族には「ストレス生成装置」としての側面がある
3.家族がやすらぎの場であるためにできること
参考文献
日本人の国民性調査 https://www.ism.ac.jp/kokuminsei/
国民生活に関する世論調査(内閣府)https://survey.gov-online.go.jp/index-ko.html
阿部恭子:家族間殺人、幻冬舎新書、2021
石原邦夫:改訂版 家族のストレスとサポート 財団法人 放送大学教育振興会 2008
小田切紀子・野口康彦他:家族の心理 変わる家族の新しいかたち、金剛出版、2017
増子勝義:21世紀の家族づくり、学文社、2019