UXリサーチャーのための「Mixed Methods」読書会を開催しました
こんにちは。野澤です。
先日UXリサーチャー向けMixed Methodsの勉強会として、Sam Ladnerさんによる実践者向けの書籍「Mixed Methods」のDRT読書会を開催しました。
SamさんはAmazonやMicrosoftでの経験もある有名なUXリサーチャーです。この記事では、DRT読書会参加メンバーがまとめたスライドを使いながら当日Mixed Methodsについてこんなことを話した!という内容を紹介します。
Mixed Methodsが熱い
今回Mixed Methodsをテーマに選んだ理由です。Mixed MethodsはグローバルのUXリサーチャーのコミュニティResearchOpsでもよく話題になっており、海外のUXリサーチャーの間で今注目されている手法です。そんなMixed Methodsについてみんなでディスカッションしたい!と思い、今回DRT読書会のテーマに選びました。
(参考)ちょうど先日、UXリサーチャーとしてよくイベント登壇されているメルペイのみほぞのさんも海外UXリサーチャーの求人ではMixed Methodsのスキルが求められているとTweetされてました。
Mixed Methodsとは?
そんな今熱いMixedMethodsっていったい何なんでしょうか?
一言でざっくり伝えるならば、Mixed Methodsとは定性調査と定量調査をミックスするリサーチ手法です。
Mixed Methodsはなぜ注目されているの?
結論から伝えると、Mixed Methodsを使うことで定性調査と定量調査のいいとこどりが可能です。
どういうことかというと、定性調査では、顧客についての一貫した理解を深めることが可能ですが、ある事象の規模や因果関係は明らかにできません。
逆に定量調査では、規模と因果関係を明らかにすることができますが、顧客に対する一貫した理解を得ることはできません。
このトレードオフを解消し、いいとこ取りできるのがMixed Methodsだと言われています。
事例
例えば、定性調査でペルソナの仮説を立て、定量調査でペルソナに当てはまる人がどのくらい存在するのかボリュームを把握するような例をイメージしていただければと思います。(後述しますが、Mixed Methodsには他のパターンもあります)
Mixed Methodsは難しい!
いいとこ取りができるMixed Methodsですが、実践は難しいと著者は言います。なぜなら、定量と定性という全く異なる手法をミックスするからです。2つの手法の違いを表にまとめました。
バックグラウンドにある哲学が違う
定性調査の考え方の背景には、「人間の世界は、客観的な意味で「現実」ではなく、人間が行う日常的な解釈に基づいている」という社会構成主義があります。
これに対し定量調査の考え方の背景には、「人間の世界は観察を通じて自然界と同じように発見可能である(客観的な「現実」がある)」という信念(科学とは仮説を立ててそれが本当かどうかの検証が可能なものであるという実証主義)があるのです。
定量調査と定性調査は世界の見方からして異なっています。
考え方のアプローチも違う
定性調査のアプローチは、具体的なエピソードを抽象化していってルールを得る帰納的アプローチを取ります。
これに対して、定量的なアプローチはルール(仮説)を立て、それに対する観察(調査)を行い結論を得るという演繹的アプローチを取ります。
Mixed Methodsではこの方向性の異なる2つの思考をスイッチできる必要があります。
大事にすること・明らかにすることも違う
定性調査が文脈の豊かさ、参加者への共感を大事にするのに対し、定量調査で大事なのは、規模と因果関係、そして正確な測定と再現性です。
調査設計で大事なことも違う
定量調査では事前の設計が非常に重要です。実査を開始する前に念入りに完璧な調査設計を行い、実査開始後に練られたプランから逸れることはありません。
これに対し定性調査では実査中でも参加者に合わせて柔軟に変更することがよしとされます。
今まで述べたとおり、定量と定性はかなり違う手法なのでこの2つを混ぜるMixed Methodsは痛みを伴うことがあると著者は言います。Mixed Methodsを成功させるにはしっかりと調査設計を行うことが重要です。
Mixed Methodsを使う理由
Mixed Methodsは難しいのになぜ使われるのでしょうか?それには実務上とコンセプト上の理由があります。
実務上の理由
実務上の理由としては、定性と定量を組み合わせることで調査を行いやすくなることが挙げられています。例えば定性調査・定量調査どちらかだけで語るにはかなり時間をかけて綿密に調査しなくてはいけないようなことを2つの手法を組み合わせることでスピーディーに明らかにすることができます。また参加者を確保しづらい、大規模なデータセットを用意できないというときにもMixed Methodsは役立ちます。
コンセプト上の理由
コンセプト上の理由としては、定量と定性をミックスすることでよりリサーチクエッションに答えられるようになります。著者はMixed Methodsの目的を5つに整理しています。
(参考)参加者の間では発展の目的でMixed Methodsを選ぶことが多いという話をしました。定性調査で仮説を立て、定量調査でボリュームを把握したり、別のケースでは定量調査でボリュームを把握して定性調査で深掘りという使い方が多かったです。
Mixed Methodsのパターン
定量と定性をいかに混ぜるか?について著者は3つのパターンを紹介しています。
合併型
両方のデータを合わせて結論を導く
接続型
片方の調査の結果を他の調査へのインプットにする。
埋込み型
一つの調査の中に定量と定性を埋め込む
(参考)埋込み型ってどんなイメージ?と読書会でディスカッションになりましたが、インタビューで5段階評価をしてもらったり、アンケートでの自由回答がそれに当たるのでは?と話し合いました。
Mixed Methodsの進め方
Mixed Methodsの調査設計で大事なこと
帰納的か演繹的か
ミックスするとはいえ帰納と演繹のどちらが目的として強いのかをUXリサーチャーは意識しておく必要があります。帰納と演繹どちらかが強いかによってリサーチクエッションが大きく異なります。
対象への理解を深めるのが帰納優勢なリサーチデザイン、規模や因果関係を明らかにして仮説検証しようとするのが演繹優勢なリサーチデザインとまとめられていました。
本では帰納優勢/演繹優勢それぞれのケーススタディも紹介されていました。
データ収集を順次的にやるか同時にやるか
ミックスのパターンとして、データ収集を順次的(Sequential)に行うか同時(Simultaneous)に行うかという分かれ目もあります。
(参考)著者は定量調査と定性調査を同時に行うこともできるし短時間でできるからおすすめと紹介されていましたが、参加者の間では定量調査と定性調査を順次に行うことが多いという話をしました。本では同時に行う方法の具体例ややり方も紹介されていなかったのでインタビューやエスノグラフィーとアンケート調査を同時に行うとしたら、リソース的につらくないの?という疑問や調査設計が難しそう、という疑問も出ました。もし同時にやってるよ!という方がいたらぜひメリットや実践のポイントなど教えていただけたら嬉しいです。
また本記事では割愛しますが、Mixed Methodsの進め方について当日はステークホルダーの期待値調整の話やデータサイエンスとの付き合い方、分析、レポーティングについても触れました。よかったらまとめのスライドもご覧ください。
実践者への著者からのメッセージ
著者は本の最後に、社会調査の実践には終わりがない。よりよいリサーチャーになるために努力をしていこうとメッセージを投げかけて結んでいます。英語ではリサーチのスキルをcraftという言葉で表現していて素敵だったので、原文を紹介しておきます。
“There are endless ways to push your craft, and endless ways to become a better researcher.” (Sam Ladner)
参加者みんな頑張っていかねば!と震えましたw
会場の様子
当日はクライアントワーク・事業会社両方から様々な実務経験をもつメンバー12名が集まりお酒を飲みながら自分たちの経験に照らし合わせて本の内容をディスカッションしました。
参加者の感想
ただ読むだけではなく読んで感じた疑問をディスカッションすることで理解が深まったという声をいただけて嬉しかったです。次回はフィードバックも踏まえてイベント設計したいと考えています。(ディスカッションの時間増やしたり甘いもの用意します!)
イベントスライド
DRT読書会参加メンバーでまとめたスライドを共有します。本記事では紹介しきれなかったパートもたくさんあるので、よかったらご覧ください!
DRT読書会とは?
デザインリサーチャー向けの読書会DRT読書会(英語名:DRTBookClub)は、UXリサーチ本を肴に飲みながらディスカッションというコンセプトで開催しています。1人ではなかなか読めないUXリサーチ・デザインリサーチに関する英語の本に読書会という締切を設けることで自分を追い込む&読んだ内容を他の人にわかるようにまとめ、ディスカッションするアウトプットを通じて内容への理解を深めることを目的としています。
次回予告
次回はUXリサーチャーの基本である定性調査をテーマに「Qualitive Research」を読む予定です(近日イベント公開)。興味のある方はぜひDesign Research TokyoのCompassにご参加ください!
(2022/10/16追記)
イベントレポートが増えてきたので、マガジンにまとめました。読んだ本のサマリやイベント当日の様子をまとめています。よかったらご覧ください。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!