長銀団地という生き方 その17
長銀団地という生き方 その16 よりつづく
朝ごはんを食べ終え、夫に今日は何かやりたいことある?と聞くと、
だいぶお疲れのようだから、ゆっくりするのがいいんじゃない?と言ってくれる。
私は耳鼻科に行くことととする。薬を丸ごと両親の家に忘れてしまい、夫は、取りに行く?と笑って云ってくれたけど、それなら、耳鼻科にどうせ月曜にはもう一度行く約束がしてるのだから、今日行った方が良い。9時15分を待って予約を入れる。
約束の15分ほど前に行くといつも通り待合室はがらんとしている。ここは今時珍しく、一人当たりの診察時間が平均7分、ととても長いのである。五人も先客がいると30分以上待つことになるので、常連さんは予約を入れて、自分の順番までは他の場所にいるのだ。
ふと受付を見ると、ここのシンボルマークは可愛らしいカタツムリに梅の花である。受付の人にそっと聞いてみる。「どうしてカタツムリなんですか?」「耳の中にあるんです、」とそっと教えてくれる。確かに、三半規管と蝸牛と習ったことがある。それにしても、と考えると、昨日兄に送った「謹直なユーモア」という言葉が浮かんでくる。ここの先生も実に「謹直」な人なのである。ふと思いついて、受付の人にふたたび、「このエッセイの中で、この病院と先生のことを書いても良いか、訊いてもらえるだろうか?」と尋ねる。
月曜日にここを訪れた私は、兎にも角にも酷い健康状態で、それをなんとか通夜と葬儀とその後の事務処理までやれたのは、ここの先生のおかげなのだ。
「無事に葬儀ができまして、」とまずお礼を述べると、先生も、スタッフの方も皆不思議そうな顔をしている。先生が切り出す「私たちみんなSNSには疎くて、誰も、そのnoteというアプリのことを存じ上げないのですが、悪く言われるのでなければ大丈夫です。結構叩かれることはあるのですが、」といつもは笑わない先生が笑う。スタッフの方々もうなづいている。
今日も一つ一つ丁寧に確かめるように診察をし、鼻と喉の治療をし、薬の処方をし、吸入の指示を出す。
ここにも謹直でいろんなことでユーモアが隠れて強張った表情しかみることはふだんはないのだが、そういう人がいた。そしてそういう人たちが私たちを確かに支えてくれている。
この時以来、私は自分の周りに「謹直な人」を見つけては観察したり、お話を聞いたりしている。
そのことはまた別の機会に書くことととしよう。
これまで「長銀団地という生き方」を読んでくださりありがとうございました。この話は以上でひとまず終わりにすることといたします。