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長銀団地という生き方 その13

長銀団地という生き方 その12 よりつづく

葬儀屋さんより頂いた、「お悔やみハンドブック」をもとに、明日の行動計画を立てる。二人とも月曜からは仕事だから、この二日間でどこまでできるかが勝負なのだ。

市役所で回らないといけないのが5箇所、その他年金事務所、銀行に郵便局とそれぞれまわらないといけない。
兄は手書きでメモにまとめていくのに対し、私はGoogleのスプレッドシートに入れていく。行かなければいけないところは黄色、その前に電話してみた方が良いところには赤。兄は、書類を一生懸命読んで説明してくれようとするが、全く頭に入らない。風邪のせいなのか、薬のせいなのか、年齢のせいなのか、それとも、元々の素質によるものなのか。
そもそも、ハンドブックを読んでも、ネットで調べても解らないことが多すぎる。それとも、なんでも調べればわかると信じている私たちが甘いのか?

年金事務所は大変親切で、電話をしてみると、予約が12月の17日までは一杯で、でも何やら特別交付金の対象には母はなるようなので、その給付が一ヶ月なくなるのは勿体無いので、書類だけ受付に用意しておきます。と言ってくれる。結局私の冬休みまでは来れないというと、年金の手続きは全国どこでも、国家事業なのでできます。と言って土浦事務所の連絡先を教えてくれる。なるほど。

翌朝、私が別の用事をしている間に兄はいろいろ電話をかけている。朝一番に市役所に行き、果たしてこのダンジョンを何時間でくぐり抜けられるのか、ゲームの主人公のような気分になってきた。兄は迷わずお悔やみ相談の部屋へと向かう。そこで話を聞くと、必要な5箇所のうち、3箇所は電話をかけてあったので、実際に行くのは2箇所だけでいいようだ。

一緒に行くのだと思っていたら、「僕はこっちに行くから、琴さんはあっちに行ってね」。昨晩のレクチャーはこういう事だったのだ。えーっと、私が行くのは、どこで、そこでは何を言って何を出せばいいのか?一瞬頭の中がぐちゃぐちゃになる。

ようやく事なきを得ると、あちらの用事をすでに済ませた兄がこちらに向かっている。そのまま年金事務所に向かい、例の特別補助金の書類に記入・提出をし、遺族年金の書類を受け取る。「ご自分で記入して郵送でも良いのですが、不備があると、再度の・・・」という事で余計に時間がかかってしまうらしい。専門家におまかせするに限る。と丁寧にお礼を述べて後にする。
ここまでで、ちょうど1時間。なんと素晴らしい。

次はどこに行くの?と聞くと、早めにお昼を済ませよう。とのこと。兄はファミレスにも詳しく、それぞれの傾向を説明し、何なら食べられそう?ときいてくれる。「おうどん。」うどんのあるファミレスなら、とココスに向かう。

越谷のココスは、かなり南の方にあり、母が市立病院に入院していたときによくこの道を通ったことを思い出した。

母は、父が倒れて最初に入った施設とは相性が合わず、2箇所目にお世話になった所でとうとう、なにも食べない、水も飲まない、薬も飲まない、という事態になった。暖かくなってきた時期でもあり、栄養以前に脱水で重篤な症状になる前に、という事で入院となった。母は、父の不在に対する混乱もあり点滴に繋がれた途端、かなり暴れたらしい。越谷市立病院は現在でも原則「面会不可」なのだが、ドクターの特別の計らいで私が部屋に招き入れられ、母は私の顔を見て「死にたい。」と泣いた。「パパも頑張ってるから、ママも頑張って!」と励まし、食べられるものならなんでも差し入れて良しの許可をいただき、モナカのアイスを差し入れた。

そこでいろいろ検査の結果、「神経性の難病」ということになり、すぐに難病認定の申請をするように、と書類を渡されたのだった。それまで介護度1だった母は再認定の結果、介護度4になっていた。退院の間際に母への面会が許され、思わず母を抱きしめると、「まだまだ死にまへんで〜!」と戯けて母が笑った。

うどんをにお湯を足して薄める。食欲というより、味覚の異常で普通のものが喉を通らない。

あの、例の話なんだけど、とこのnoteに書いているエッセイの話をする。
”槇三郎と米子の子孫親族”の巨大なグループLineが先だっての伯父、父の葬儀に来てくれた例の従兄の昭平ちゃんのお父さんのご葬儀以来できており、そこに、”よかったら読んでね、”と、このエッセイのリンクを貼っておいたのである。兄は、ああ、一応見た。と言ってくれる。

「これまで、誰の名前も出さないで済むように書き方を工夫してきたんだけど、お兄ちゃんの名前だけが、どうしても必要なんだよね・・」

兄は、本名での投稿は安全でないこと、職業についてもネットで叩かれる恐れがあるものについては、と一通りのレクチャーをしてくれる。
竹橋学園では情報管理の仕事もやっていたようである。

「では、僕は海鳥一郎、ということで」
「パパは?」「海鳥パパでいいでしょう」
「私はどうしよう?」「Yamadoriでいいんじゃない?」

そうして私はYamadori Kotokoになった。



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