ドルキャリーが始まった?円売り圧力の低下
雇用統計年次改定、81.8万人下方修正
23時に公表されるとされていたのですが、米労働省のHPが23時に更新されず、昨年のデーター30.6万人下方改定のままだったことから、ドル円相場23時に急伸するというハプニングがありました。AI,アルゴが瞬時に去年の数字30.6万人に反応してしまったのでしょう。今年の年次改定は60~100万人規模の下方改定がある、との事前報道でしたので30万人なら全然良いではないか!という反応ですね。
労働省のHPが更新されたのは23:30、30分遅れでした。その間ドル円相場は上へ下への乱高下。上記チャート画像を拡大してみてください。長い上ヒゲ、下ヒゲ示現。実際に発表されたのが 81.8万人の下方改定でした。
予定通りの時刻にHPが更新されず発表されない、というのも問題ですが、昨年データーを新しいデーターと勘違いして動いてしまうAIも大概ですね。
この81.8万という数字をどう読むか、ですが事前に観測されていた上限100万に届いていないため、悪くないと受け止めるのか、それともこうした事態を受けて今後のFRB対応が変わると考えるのかでトレードの判断は変わってきます。
このデーターを受けて米金利は一段と低下しています。これは、景気の先行きへの懸念が膨らんだため、利下げペースを上げろという催促に見えます。
もともと9月利下げ開始確率はほぼ100%でしたが、今回の年次改定を受けて0.25%ではなく0.5%の利下げからスタートするのでは?という思惑がやや上昇しているようです。FedWatchは0.5%利下げ確率が32.5%にまで上がってきました。これで、来週発表される8月分の雇用統計が弱ければ、さらにその確率が上昇する可能性もありそう。
しかし、こうしてドル円1時間足を見ると、きれいな下落トレンドの中にあることがわかりますね。
年次改定発表前、東京時間から欧州時間にかけてドル円相場はじり高推移でしたので昨日作った145.84円のドル円ショートはコストで切らされていたのですが、年次改定を受けた上ヒゲを見て、146.03円で再度ドル円を売り直しました。これもコスト付近に逆指値をおいておきます。1.2864ポンドドルロングも継続、こちらもチャートおいておきます。23年7月高値を超えるともっとポンド高ドル安が走りそうです。
円キャリーならぬ「ドルキャリー」が始まった?!
ポンドドルが高い、ということはすなわち米ドルが安いということです。通貨インデックス比較チャートをみると6月くらいからドルは天井を打ちドル安基調に転換、7月CPIを受けてその流れは加速(9月利下げ確度が高まったため)7月日銀会合を受けて、その流れはさらに加速しているようです。
赤のラインがDXYドルインデックス。ポンド、EUROが今年のドルのパフォーマンスを追い抜きましたが、円の追い上げもなかなか凄まじいですね。
さて、誰がドルを売っているのか。興味深い記事がありました。
ヘッジファンドの一部が、円キャリーではなくドルキャリーで新興国通貨投資を始めたというのです。8/5~ということですが、日銀の利上げと植田総裁のタカ派豹変をみて、これから利上げのリスクがある円より、利下げの確度が高いドルを借りるほうが安心感があるということでしょう。
しかしドル金利はまだ高いじゃないか、と思われるかもしれませんが、記事にあるのは投資先は「レアル」「リラ」といった新興国通貨です。米国の政策金利は5.25-5.5%ですが、ブラジルの政策金利は10.5%もあります。このスプレッドだけでも5%ありますが、実際に取引に使うのは短期資金でしょうからドルキャリーは短期金利が基準になろうかと思います。だとするなら、ドルキャリー金利コストは現在3.9%程度で4%を割り込んでいます。(米2年債金利)となると相当な利鞘が抜けるわけで、ブラジルやトルコといった高金利通貨への投資であれば十分にドルキャリーでも見合うということでしょうか。もちろんまだ現在では日本の金利のほうが圧倒的に安いわけですが政策の方向性がタカ派ですので、円高のキャピタルロスリスクを避けたいのだと思います。これはドル/レアルチャート
ドルキャリーで円を買う、という取引は少ないと思いますが(逆スワップでコスト負担が大きすぎる)しかし、円キャリーが減っているとするなら、円売り圧力は低下しているわけで、なかなかドル円が上がらない背景にこうした短期筋の投資スタンスの変化がありそうです。要するに円金利上昇で積極的円買いがあるわけではないのですが、ドル金利が低下している、今後も低下する可能性があるということが、ドル円が上がらない理由というわけです。
日本の貿易収支は予想より赤字が大きかったものの
円安効果で輸出数量が伸びやみも金額が大きくなっているんですね。また、円安ですから輸入コストも拡大しています。しかし、これらを相殺すると貿易収終始は6218億円の赤字でそれほど大きな赤字ではありません。足元では貿易実需による円売り圧力は限定的であると言えます。22~23年の赤字額に比べたら小さいですね。前月6月は黒字でした。
その他にも実需ベースでみれば日本の個人の対外証券投資やデジタル赤字といったドル買い需要は大きいのですが、これら実需のドル買いは円高リスクを限定的にする、円高になりにくくなるという側面はあろうかと思いますが、それ自体が相場を押し上げるというものでもないかと思います。これら実需のドル買いと、投機筋のドル買いとが相まって勢いづけば、それに個人のFXなどの提灯もつき今年前半に見られたような大きなドル円上昇のトレンドとなっていくのですが、足元のマーケットでは投機の円キャリー再開が限定的と見られるため、上値が重いということのようです。
次の材料は23日、閉会中審査の植田総裁のご発言とジャクソンホール会合でのパウエル議長の講演ですね。