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心を掴む会話術

 テーブルホッピングの現場にてマジックを演じていると、観客と様々な会話をすることになる。
 この会話によって、マジックが楽しくも不快にもなるが、ホッピングの現場では特にその要素が大きいと言える。
「急にやって来て、アナタはいったい誰だ!?」
という状況からでもマジックを演じるためにも、
「見ず知らずの人にチップなんて出せるか!」
と言われないためにも、
「ちょっと冗談を言っただけなのに、なんて面白くない真面目な返事!」
と興醒めされないためにも、
「今度、うちの会社の忘年会で呼びたい!」
と依頼をもらうためにも。
 重要なのは対話であり会話である。

 この章では、初対面の観客と打ち解けるための「アイスブレイクのための会話導入」、返答に窮する質問や要求など「無茶振りの対応例」、稼ぎの柱となる「出張マジックに繋げる会話術」の3項目を、実例を挙げながら解説する。
 ただし、私の実例は、私の現場と私のキャラクターだからこその会話例である。誰が言っても同じ効果が出るわけではない。
 私の会話例を参考に、あなたのキャラクターや現場にあったセリフを見つけていただきたい。


アイスブレイクのための会話導入

 1章でも述べたが、テーブルホッピングの現場では観客と短時間で信頼関係を構築し、いかにして仲良くなれるかが肝となってくる。
 テーブルについていきなり演技を始めてしまうと、マジックを見る姿勢に入っていない観客にはマジックの不思議さがうまく伝わらないことが多々あるのだ。

 そこでアイスブレイクを行う必要がある。
 アイスブレイクとは、氷のように固い初対面での緊張感を解きほぐすためのやり取りのことである。
 と言っても、それほど大仰なことではない。
「今日はいい天気ですね」
というような一般会話が、つまりはアイスブレイクである。

 二言三言会話のキャッチボールをすれば、よほど不審な会話でなければ、アイスブレイクは成立する。
 氷のように固い緊張感は、相手が何を考えているのかどういう人物なのかわからないことに由来するが、二言三言によって言葉遣いや表情から情報が伝わり、それで観客は安心して、マジシャンに心を開くようになる。
 したがって、会話の内容は必ずしも重要ではなく、会話の受け答えが成立しているかどうか、のほうがよほど重要である。
 質問されたのに答えない、延々と自分ばかりがしゃべり続ける、聞き手のことを考えていない素振りである、などがアイスブレイク失敗の要因となるだろう。

 基本的には、質問をして返答をもらい、その返答に対して掘り下げてさらに質問する、という流れでアイスブレイクは行われる。
 しかし、質問攻めにすればよいということではなく、相手に嫌な思いをさせることなく会話のキャッチボールをする必要がある。
 そのため、質問内容もあまり踏み込んだ内容にはせずに、差し障りのないゆるい質問を投げ掛けるほうが良い。
 また、答えたくなさそうな雰囲気であるときは、速やかに質問を変えるなど、質問の内容に固執しないことも重要である。
 アイスブレイクが先でマジックが後、という大まかな順序はあるが、アイスブレイクを行いながらマジックをするような同時進行になることもあるだろう。

 ここではアイスブレイクにどのように導入するのか、会話例を交えて紹介をする。
 ただ、何度も言うようだが、どのような返答が来るのかは、人それぞれである。同じ会話の流れになることはない。
 そのことを踏まえた上で、参考にしていただければ幸いである。

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