6章:上達するために
マジック上達法
ここでは、マジックの上達法について説明しますが、そもそも「マジックが上達した状態」とは、いったいどういう状態のことなのでしょうか。
どういう状態になれば、「マジックが上達した」と言えるのでしょうか。
物凄くギミックの使い方が上手い状態でしょうか?
それとも、物凄くマジックグッズの扱いが上手い状態でしょうか?
あるいは、テクニックが物凄く上手い状態でしょうか?
いずれも大事なことです。
しかし、それを満たせば《人気マジシャン》になれるのか、と言うと、答えは「ノー」でしょう。
ギミック使いが上手くても、グッズの扱いが上手くても、テクニックが上手くても、それだけでは自己満足でしかありません。
マニアの方々相手であればともかく、一般のお客様に感動を与えることはできないでしょう。
人気マジシャンを目指すならば、より多くのお客様に感動していただかなければなりません。
マジックの技術をベースにして、お客様に感動を与えられるようになることが、ここで言う「上達」です。
泡坂妻夫師の述懐
直木賞作家であり、紋章上絵師であり、マジシャンであられた故・泡坂妻夫師(厚川昌男師)は、小説家の道に入られて、沢山の小説を残されました。
その中で、推理小説やトリック小説にも物凄い評価がありました。
そんな泡坂先生が新人だった当初、衝撃を受けた事があったといいます。
マジシャンでもいらっしゃる先生ですから、推理小説のネタ、トリックのネタは山ほどお持ちだったと思います。
先生の創作マジックのアイデアは物凄く発想が変わっていて、本当に柔軟で、常識や先入観に捉われた大人たちには全く想像もつかない、とびっきりの少年のような柔軟なアイデアが多いのです。
しかしどれだけ少年の様な突飛なアイデアがあっても、アイデアだけでは読者に伝わりません。
それをきちんと伝えるための、成熟した大人の表現力や文章力が必要になります。
《子供》の発想力と《大人》の表現力が共存してはじめて、本当に素晴らしい、読者があっと驚くミステリー小説が書けるようになるのです。
そのことを文壇に入られた当初に泡坂先生は気付かれ、
「たいへんな世界に入ったもんだと感じた」
と述懐されておられました。
マジックでも全く同じことが言えると思います。
どんなにテクニックがあっても、ギミックやグッズの扱いが素晴らしくても、それを素晴らしいと判断するのは演者ではなくお客様です。
お客様に伝える技量が伴っていなければ、エンターテイメントとして成立しないのです。
まして、テクニックやギミックは、お客様には伝わってはいけない部分ですから、そこばかりを鍛えても、いつまで経っても「マジックが上手い」という評価に繋がらないということです。
『マジック』というエンターテイメントの、不思議さや感動を如何にしてお客様に伝えられるか、と考えてみましょう。
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