【視力2.0 原稿】#3 世界的な近視人口の拡大懸念と、経済的損失
現代社会では視覚不良者の人口が拡大し、例えば日本では成人するまでに8割近くが裸眼視力1.0以下になる、ということが、統計でわかっています。
文部科学省の学校保健統計です。児童生徒の健康データを集計し、何十年もデータを蓄積しているのですが、近年、視覚不良者人口はずっと右肩上がりなのです。
実はこれ、日本だけの傾向ではなく、世界的な傾向なのです。もともと東アジア地域は視覚不良者人口が多く(主に近視)原因は遺伝は受験競争などだろうとされていましたが、今では欧米やその他の地域でも視覚不良者人口は拡大し、その原因はスマートフォンなどの情報端末の急速な普及だろうとされています。
そして視覚不良が原因で生じる経済的損失は途方もない額で、将来の医療費や社会福祉費用などの経済的損失を膨大なものにします。拙著「視力2.0(仮題)」では、資料や学術論文を引用して掲載しました。
私は研究者という職業柄、ものを書くときの論法として、
・どのような課題があるのか、原因は何か、どのくらい困るか
・どうしたら解決するか、自分は何を提案できるか
という順に資料を作るわけです。会社や国へ研究費を申請するときの書き方ですね。
しかしながら、拙著「視力2.0(仮題)」は、一般の方向けで、読んで目が良くなるような生活習慣を取り入れる、というようなコンセプトで進めることになったため、日本のことはともかく、世界的なところまでは、範囲を広げすぎだろう、ということで、カットされてしまいました。
以下がカット部分です。世界的に視覚不良者人口が拡大すると、とても困ることになる、という内容です。
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近年世界的に視力不良者の人口が拡大し、特に日本をはじめとする東アジアでは顕著です。社会のデジタル化に伴ってIT機器なども普及し、パソコンやスマートフォンなどが生活必需品になる中、視力低下への影響も関心を集めています。
WHO(世界保健機関)は2050年には世界人口の半数が近視になると警鐘を鳴らしており、高名な科学雑誌であるNatureにおいても、「The Myopia Boom」(近視の大流行)というタイトルの記事が2015年に掲載されました。2020年には世界人口の3分の1である25億人が近視になると予想されており、実際に2020年、近視人口は26.2億人と集計されました。論文の予想を上回るペースなのです。
また、オーストラリアのブライアン・ホールデン視覚研究所によると、2050年には近視人口は48億人にも達するとされています。うち9.38億人が、強度近視になるだろう、と予測されています「Holden et al. Ophthalmology 2016; 123: 1036」。
近視人口が拡大すると、強度近視の人口も一定の割合で拡大することを意味しており、その中から合併症による失明危機者が増大すると考えられます。例えば強度近視のリスクとして、緑内障が3.3倍、白内障が5.5倍、網膜剥離が21.5倍も罹患しやすくなるとのことです。WHO(世界保健機関)は世界的な近視人口の拡大を公衆衛生上の危機、と警告しています。
これらの危機的な近視人口の拡大は、近年「近視パンデミック」と呼ばれるようになりました。
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視覚不良の大半は「近視」であり、これは眼鏡やコンタクトレンズで矯正可能で、実際に多くの方々が装着して生活しているわけなのですが、あまりに強度に近視が進行すると、様々な眼病を引き起こしてしまうんですね。それは、失明人口拡大につながってしまう、その損失が、膨大な額なのです。失明したら働くのはほとんど不可能で、介助も必要となります。社会保障費で支えなければなりません。
世界規模でみると、なかなかに危機的な状況なのです。そこに一石を投じたく、拙著「視力2.0(仮題)」をしたためた、というわけです。次回は、日本における損失額と、個人レベルの経済的損失について、カットされた部分を掲載したいと思います。お楽しみに!