オタクの本気のWebマーケティング~実録!推しを総選挙で勝たせるために(AKB総選挙2014)~
今日は少し経路の違うお話ですが、僕の経歴の中で
「AKB48のとあるメンバーの生誕祭実行委員、選挙対策委員やってました」
っていうと、多くの方からその実態を質問され、お話しすると
「すげー!めっちゃがちでマーケティングしてるじゃん!」ってお話をいただくので、今日はその辺を振り返ってまとめてみようと思います。
概要
まず、今回のエピソードは私が実際に最も関わった年、2014年の「AKB48 37thシングル 選抜総選挙」についての実際の出来事です。
結果から先にお話しすると、私の推しである山内鈴蘭さんは
69位:11,510票
という結果でした。
※ 山内鈴蘭さんは今でもSKE48の現役メンバーです!
気になったらチェックしてみてください。
ちなみに正確な数字は忘れてしまいましたが、
このうちの約60~80%は、私たち自らの投票もしくは何かしらの方法で投票報告を受けていて把握していたものでした。
今思うと、この頃は48グループ全盛期で全国、全世界にファンがいる中で、かつ今ほどWebマーケティング全盛でもない時代に、プロでもない集団がどうやってこれを実現したのか、ここから振り返っていこうと思います。
組織体制、チーム編成について
まず、「そもそもどのくらいの規模で誰がこれをやったか」から整理していきます。
当時の山内鈴蘭さんのファン同士は横のつながりが多く、それぞれの握手会やライブ会場などで挨拶をしあったり、生誕祭などではそれぞれのグループを超えて協力し合う状態でした。
その中の約10~15名ほどで「山内鈴蘭選挙対策コミュニティ」というものを立ち上げたのが、前年2013年の総選挙後の秋口だったと思います。
故に選挙対策という名目で活動していたのは10~15名でありながら、そのコミュニティ内外で時に柔軟に対応していた印象です。
ちなみに私は主にWeb、SNS周りを中心に推進していました。そのため、その要素がこの記事では多くなると思います。
ミッションとビジョン
「山内鈴蘭選挙対策コミュニティ」は明確なミッションとビジョンがありました。
ビジョン:
山内鈴蘭さんに(本人の希望である)今までで一番良い景色と活躍の場を勝ち取ってもらいたい
ミッション:
総選挙でこれまで最高位(36位)を超える
今思うと明確な世界観と定量的に終える数字が定義されていたなと思います。
具体的なアクション
まず、大きく掲げたのは
・鈴蘭さんのファンの熱狂を作る
・個別の推しがいない人の浮動票を多く取り込む
というもので、それぞれに対して以下のような複数の打ち手を行なってきました。
【鈴蘭さんのファンの熱狂を作る】
1. 各種SNSアカウントでの情報発信、ブランディング
2. ファン同士の繋がり強化と初心者のオンボーディング
3. 地理的な壁を超えたWebマーケティング
4. 代行作業や会場での入力サポートなどのCS業務
【個別の推しがいない人の浮動票を多く取り込む】
5. 投票券のレートを読みながら適切なタイミングでの投票券集め
6. 期日直前での大量仕入れと自動入力
今思うとどれも現状のプロダクト開発におけるユーザーとの向き合い方に重なる部分があると思います。
それぞれ具体的にどんなことをしていたかみていきましょう。
1. 各種SNSアカウントでの情報発信、ブランディング
まず、行なったのが情報発信源の集約とブランディングです。
当時、AKBファンの中では以下の3つが主流でした。
・Twitter:主に日常の情報交換や、各種取引
・Mixi:当時のコミュニティSNS
・Google +:AKBがタイアップをしてメンバーが発信するSNS
そのため、これらの全て + 問い合わせ用のGmailアカウントを作成し、それらが印刷された名刺大のカードを作成しました。
このカードを握手会での山内さんの列に並んでる人や、コンサート会場でタオルを持つ人たちに配布したり、郵送物に同梱することでひたすらブランディングと認知を進めました。
そして、上記のSNSアカウントそれぞれに2名以上の担当(主/副)が付き、ひたすら以下のことをやり続けました。
・CD予約情報の発信
・握手会の枠情報の発信
・山内鈴蘭さんのツイートの引用
・ファンの方のフォロー、リツイート、いいね
・他メンバーのコミュニティへの応援コメント、リツイート
これらの徹底したブランディングにより、山内鈴蘭さん本人からの発信も含めて、「山内鈴蘭さんの選挙関係はここを見ればいい」という認知を獲得しました。
2. ファン同士の繋がり強化と初心者のオンボーディング
ファン同士の繋がりはSNS上だけでなく、リアルの場でもあるのが48グループの特徴の一つです。
具体的には握手会会場では、常にファン同士が集まり、挨拶、交流が行われ、必然的に選挙対策会議の場にもなりました。
また、会場によって参加できるメンバーも異なるため、そこで話した内容などはSNSで共有されました。
リアルの交流は、コアなファン同士の繋がりのみではなく、初めて参加した人の受け入れの場や握手の列に一緒に並ぶなどの方法で勇気を出して会場におとづれた新しいファンに良い体験をしてもらうためのサポートの場ともなりました。
ファンとして握手会に参加するオンボーディング を運営から頼まれてもいないファンが勝手にやってくれているような印象でしょうか。
ここでの体験が「山内鈴蘭さん自身のみならず、ファンの方々も優しいな。自分の一緒に盛り上げたい!」という熱狂をつくる一歩になっていたのかもしれません。
3. 地理的な壁を超えたWebマーケティング
とはいえ、会場に足を運ぶファンは全体から見ると一握り。大抵はテレビ番組やCDを聞いて応援しているファンです。そんな方々と積極的にやり取りできるのはSNSだけではありません。
2014年当時はまだAWSのEC2でWordPressを立てるには公式のAMIがあるわけでもなかったので、「Microsoft Azure + WordPress」という構成で選挙対策コミュニティのサイトを立ち上げました。
このサイトには今ほどリッチなものではありませんがGoogle Analyticsを導入し、アクセス解析も行っていました。
特にみていた指標は海外からのアクセスで、ある時期、とある国からのアクセスが極端に増え、原因を調査すると海外のファンサイトからの流入でした。これを好機と思い、相互バナーを貼ることで海外のファンに対するリーチも拡大しました。
このサイトのメインコンテンツは
・SNSの埋め込み
・活動報告
・問い合わせフォーム
・代理投票受付
でした。特に「代理投票受付」は後述する浮動票の取り込みでも多くの効果を発揮し、
「SNSで頑張りをみていたので推しじゃないですけど、券を譲ります」
「高齢のため、投票方法がわからないので郵送します」
「多すぎて期日に間に合わないので代わりにお願いします」
などあらゆるペインを解消する結果となりました。
5. 投票券のレートを読みながら適切なタイミングでの投票券集め
さて、次に浮動票の取り込みです。ここが一番効果を発揮したと思います。
というのも、選挙の投票券の価値は時期によって変わります。
ここのレートの変化を正しく捉えられるかが最終的な投票数の肝になるので、まずはそこから解説します。
まず、当時のCDは以下がセットになっていました。
・CD本体 × 1
・握手券(劇場版 / 通常版 でその種類が異なる) × 1
・ランダム生写真(誰が入ってるかわからない) × 1
・投票券 × 1
ここでキーとなるのが「握手券」と「ランダム生写真」です。
握手券は以下の2種類があります。
・劇場版(個別握手券):メンバーと時間指定の事前抽選制。個人情報に紐づくので本人のみ利用可能
・通常版(全国握手券):CDショップなどで販売。メンバー、時間の指定なし。誰でも利用可能
この「全国握手券」と「ランダム生写真」はTwitterなどで日々、取引されています。
そして、「全国握手券の日付(卒業予定メンバーの最後など)」や「ランダム生写真」のメンバーによって価値が変わります。
これがレートの考え方です。
例えば、
・37thシングルの前田敦子さん:投票券10枚相当
・毎年人気圏外メンバー×3枚:投票券1枚相当
などが基本です。
そこにさらに時間の流れによる変動があります。
具体的にはAKB総選挙のスケジュールは
・投票開始:投票券封入シングル発売日
・その1週間後:速報発表
・その約1~1.5ヶ月後:投票締め切り
・数日後:開票イベント
となります。故に、投票券そのものの価値は、以下のタイミングで高騰します。
・速報発表直後:推しが思った位置にいないファンが頑張ってかき集める
・投票締め切り直前:全ファンが死に物狂いで集める
この時流を読みながら、どのタイミングでどのくらい、投票券を集めるかが勝負の分かれ目になります。
ここで、上級テクニックを紹介すると
・投票開始~速報まで:投票しないで保持
・速報直後:高いレートで投票券を差し出す(ここで強いメンバーの生写真を収集)
・落ち着いた時期:即表直後に集めた生写真を投票券に交換
・その後、投票
このようなやり方をすると時に、
10枚の投票券を元本に最終的には100枚の投票券が手元に集まる
ということも実際あり得ました。
このようにして、時流を読んで投票券を集めることも重要な戦略でした。
6. 期日直前での大量仕入れと自動入力
前述の通り、投票券は期限直前に価値が高騰します。しかし、一方で本当に直前(投票終了当日など)になるとむしろ大幅に下落します。
というのは
「こんなにまだ残ってるけど・・・打ち込み切れないよ・・・」
という状態が起こるからです。
そのため私たちは終了当日には大量の人員が集合し、一斉に投票作業を行います。
それも、手作業のみならず、スキャナーを使って自動取り込みしたものを PCでひたすら入力するという方法も使いました。
これによって、明日にはゴミになる投票券を安いレートで仕入れ最後の追い込みをかけるのです。
ここにもWebサイトに用意した「代理投票受付」は大いに役に立ちました。
[参考:別年度の投票券]
最後に チームの話
最後に、この方法がうまく回って目標には届かないものの、大きな貢献ができたのは一重にファンみんながチームとしてうまく機能していたことが最大の要因と思います。
当然ながらメンバーの入れ替えはあるものの、1つの明確なビジョンに向かって「自分はこれで貢献できる」「これなら手伝える」というタスクを自主的に取りに行き、普段の本業を活かせる役割 / 全く違う役割をそれぞれ全うすることができたのは私の経験としても大きな価値があったと思っています。
そして、7年たった今、全然あの頃の仲間とのつながりは無くなってしまいましたが、本業のPdMとしてこの経験からいろんなものがイメージできるのは感慨深いなと思いました。
ちょっと変わったネタ記事でしたが、楽しんでいただけたら幸いです。
Special Thanks
あの頃も、今も繋がってくれていて、内容を添削してくれた のぶさん。
「山内鈴蘭総選挙対策コミュニティ」の皆さん、ありがとうございます!
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