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詩「毛玉」

20240803

どうしても 靴下の中で 増殖する毛玉が気になる
気になって気になって 仕方がない
違和感と共に 家の中をぐるぐると歩き回っている
喉が渇いたら水を飲む

もう何日経っただろうか
自分で買ったもの以外は 何もない家の中
こうしている (毛玉め! 忌々しい!)
それでも 靴下を脱ぐ気にはなれなかった

気が向いたらレイアウトを変えた
部屋は四つもある 自由度は高い
シミュレーションゲームのように
彼は自分の持ち物だけで 様々な住人を作り出した

その住人たちと 会話をしたりしながら
また足を前に出して 次の部屋に行く
テレビや ラジカセの 配置を変えるだけで
その顔は変わり 会話の内容も変わる

増殖する毛玉と 同じ数の登場人物が
脳内に部屋を作り ストックされていく
喉が渇いたので水を飲み また歩き出す
そうしなければならないという 使命感だけがある

(毛玉め! 燃やしてやろうか!)
何故 靴下を脱げないのだろうか
ぐるぐると 歩き回った分だけ 増え続け
溢れたものは 彼のにおいと一緒に残る

彼は 毛玉に埋もれながら 部屋を出る
廊下も 毛玉に埋もれている
靴下は そこまで毛玉を生み出せるのだろうか?
ただ毛玉は 実際に 腰の高さまで積まれる

居るはずのない住人の一人が 不思議そうに彼に聞く
「一体 君は何をやっているんだ?」
彼は住人に顔を向けて 平然とした顔で言う
「何って? 何のことだ?」

やがて 室内を埋め尽くす 毛玉に溺れて
ゲホゲホ 咳き込みながら 窒息死をするだろう
毛玉は仲良く 手を繋いでいる
彼以外の 架空の住人もまた

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