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短編『無題』

昔のgmailを漁っていたら、自分宛てにこんな物語を送っていました。
なぜこんなものを書いたかも、もう思い出せません(笑)。


・テキトーな叔父さん

「知ってるか?
 シェービングクリームを隠し味にすると
 スペアリブは格段においしくなるんだぜ?」

…こんな話、誰が信じるだろうか。
これは叔父さんの言葉だ。叔父さんは昔から、お父さんにあきれられているくらいのテキトー人で、僕は今までなん度、その嘘に騙されて来たかわからない。
しかし、今度こそ騙されないぞ。シェービングクリームなんて、舐めただけで吐いてしまいそうじゃないか。僕は子供だけどそれがわからないほど幼くはない。でも、中学生っていうのはまだ未熟だとは思う。
僕は中学一年生になったばかりで、さっきまで私服にランドセルだった皆が、黒ずくめの制服を着てショルダーバックを下げているところなんか見ると、やけに笑えてきてしまうのだ。

・可愛い甥っ子

いやぁ。あいつには話し甲斐があるね。
いっつも目をまん丸くして、こう聞きやがるんだ。
「ねぇ…それほんとう?」
まいっちゃうよなぁ。月にマントヒヒなんていないし、カエル専用の銭湯なんて想像もできねぇだろ…ハハハ、可愛くて仕方がねぇんだ。それよりもあいつ、もう中学生だってな。きっと今までみたいな純粋に俺のウソを聞いてくれなくなってしまうんだろうな…。
なに、ちょっとしんみりしただけだよ。あいつを見てると、俺の小さかったころに似ててさ。世の中の全部が、「ほんとう」に思えてたのさ…。

・居酒屋にて

「そうか…お前も、ちょっとは大人らしいこと考えるようになったな」
祐太の父、一彦は、弟の少し薄くなった頭の毛を眺めながら呟いた。弟は一博と言い、兄弟の名前は一文字しか違わなかった。
「カズヒコ」と「カズヒロ」。
その名前の似ている具合に対して、性格や考え方は真反対と言って良いほど似ていなかった。
「ああ、あいつは俺にとっても子供みてぇなもんだ」
「ハハ、こりゃ由美子にキレられるな」
一彦は笑う。由美子とは、一彦の妻なのだが、一博とはなかなか馬が合わないらしかった。
「大体、あの人は真面目すぎるんだよ。俺にゃあ合わねぇ」
一博はぼやいた。

・今晩はオムライス

なによ。急にこっちに来て、
「美味いおでん出す居酒屋があるんだ」
なんて、いきなりにもほどがあるわ。
祐太を居酒屋になんて連れて行けないし、今日は大事な話があったのに…ま、しょうがないわね。あんなはげ頭に気を取られるのなんてまっぴら。
やっぱり、祐太は良い子に育ってるわ。あなたもそう思うでしょ?…って、話す相手もいないんだけどね。

・食卓にはお箸がない

「お母さん、何考えているの?」
黄身の乗っかったスプーンを片手に、不思議そうに祐太がたずねる。われを取り戻した由美子は、首を横に少しだけ振り、恥ずかしそうに笑った。
「なんでもないよ。それより、コレおいしい?」
「うん!今日もおいしい」
この、今日も、という言葉が、由美子にとってどれほど嬉しいか、祐太は知らない。毎日の食事で、この言葉のために頑張っているのだろうな。と由美子は感じた。


2013-09-12

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