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地域の活力維持に「地域電力」というアプローチ【地域の未来】

【どんな記事?】
人口減少や少子高齢化による地域コミュニティの弱体化が叫ばれて久しい。地域社会の「担い手不足」をどう解消し、地域をどう維持していくか。多くの地域が直面している課題ではないだろうか。人口減少が深刻な問題となる中で、この課題に対し「地域電力」という民間の力を活用した仕組みでアプローチする試みが、岐阜県美濃加茂市で始まる。「民間事業の力で地域を維持する」この試みは、今後の地域のモデルケースとなり得るか。そのビジョンについて、仕掛け人に聞いた。

 岐阜県南部、木曽川の中流域に位置する人口およそ5万7千人の岐阜県美濃加茂市。ここで「民間ビジネスによって地域の問題解決を図る」という新たな試みが、連休明けの7日から始まる。それは「地域電力」という、多くの人がまだ聞き慣れないであろう仕組みを活用した試みだ。「地域電力」がどう地域の社会問題の解決を図るのか?。新会社「木曽三川電力みのかも(株)」を立ち上げる加藤慎康(@shinyasukato)に聞いた。

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会社設立のため買取った美濃加茂市内の「空き家」。ここが会社所在地だ。

地域住民の「電気代」を「まちづくりの資金」に!

「まちづくりの資金を地域内で生みだしたい」。そう語る加藤が立ちあげる事業構想を丸めて言うと「地域住民が支払った電気代を、まちづくりの資金にする」ということになる。どういうことか。
 新会社「木曽三川電力みのかも株式会社」が見込む営業収益の柱は、美濃加茂市の地域住民や事業者などが支払う「電気代」だ。2016年4月の電力の小売全面自由化により消費者が電力会社やメニューを選べるようになった。つまり美濃加茂の地域住民も、電力会社を自由に選択することができる。その毎月の電気代の支払先に、加藤が立ちあげる新会社を選んでもらう。これがこの会社の事業の柱だ。そしてそこから上がった収益の一部を地域社会の問題解決の資金としたいー。これが大枠の事業スキームだ。
 しかしこの事業、加藤によると成功したとしても「利益率はかなり低い」という。ではなぜ利益率の低い事業に敢えて彼は挑戦するのか?
 それには彼がこれまで歩んだ人生が大きく関わってくる。

「まちづくり」携わり10年 年収1万円!時代も

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 加藤慎康(@shinyasukato)は元々、大企業に勤めるサラリーマンだった。しかしやはり自分で事業をしたい!と一念発起し脱サラ。その後、様々な立場から「まちづくり」に携わってきた。名古屋市のまちづくりのプラットフォームを目指してNPO法人「大ナゴヤ大学」を立ち上げ学長に就任。その後「名古屋テレビ塔」で周辺の開発にも関わりまた別の視点からまちづくりに携わった。ここ3年は美濃加茂市に乞われて自治体で職を得て、行政の立場からまちづくりに関わり、地域が抱える課題の数々、とくに地域社会の担い手不足の現状を目の当たりにしてきた。
 実は筆者と加藤との付き合いは実はもう10年になるが、彼はお金儲けを最優先に考えるタイプの人間ではない。まちづくりという公益性の高い事業に取り組むことに大きなやりがいを見出している人間だ。その加藤が繰り返しぶつかってきたのが、非営利組織の持続可能性、要するにお金の問題だった。
 NPO法人の立ち上げ直後は見通しの甘さから「年収1万円」(!)という中々壮絶な経験もしている。いくら社会のためになる活動でも思いやビジョンだけでは続けられない。公益的な活動を自立的に行うにはどうすべきか。「まちづくりの資金作り」の重要性をいつからか意識するようになっていったという。資金の課題を解決し、まちづくりにも活かせる仕組み。その実現のために加藤が目をつけたのが「地域電力」という事業だった。 

 払った電気代が地域に還元   民生委員の経費も!

 加藤によると、美濃加茂市で使われる電気代は年間およそ80億円。この1割にあたる8億円を加藤の会社が営業努力で獲得する。そして人件費などをひいた数千万を「美濃加茂地域のまちづくりの原資としたい」という。
 既存の大手電力会社に支払われた電気代は、実は発電・売電会社を経て、地域の外へ出ていってしまうという。それを加藤の地域電力会社に支払先を変えてもらうことで、支払われた電気代の一部を、地域に還元する事ができる。地域住民からすれば、自分達が使った電気代を、地域に還元するのが加藤の会社というわけだ。還元方法としては「里山再生」「地域自治」「福祉」などの山積する地域の課題の解決資金としてこの原資をあてる。なり手不足が叫ばれる地域の民生委員の経費の捻出なども手がけたい考えだ。加藤自身も自らプレーヤーとしてこれらの事業に関わる。

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加藤の拠点近くから。美濃加茂市は里山資源が豊かな場所だ。 

地域の自立を図る  「地域の時代」

この試みの大きなポイントだが、加藤が目論むこれらの事業はかつて行政が担ってきたものだ。ある人はこの試みを「地域の時代」と評した。人口減少・少子高齢化に直面し、税収も減り続ける中、行政頼みによる地域の維持はもう限界に来ているのが実情であろう。人口が減少に転じていない美濃加茂市でも、やはり「地域のことは地域で」という方向に舵を切りつつあるという。行政が全てを担う時代は終わりつつあるのだろう。自治体の役割が「共助」を後押しするという形に変わってきているのだ。
 こうした中、行政頼みから脱却して地域が自立し、自分達の「まち」のことを自分達で何とか出来る仕組みを作りたい。加藤が取り組むのは、そんな試みである。「地域の時代」とは言い得て妙だ。

美濃加茂の空き家を購入 シンヤス村に!?

会社の立ち上げに先立ち、加藤は美濃加茂市の山間の一角の空き家を買い取り、拠点と定めた。3000坪の面積を持つ、写真の通り自然の緑に囲まれた昔ながらの民家である。畑も多く、加藤の周辺では『シンヤス村』と呼ばれ、美濃加茂版DASH村だ!との声も。
「地域の課題解決を掲げている以上、自分も地域に住みこんで深くコミットする方が、事業、ひいては美濃加茂にとってプラスになると思った」と加藤。「会社の拠点とするだけじゃなくて、地域住民の交流の拠点となるような場所にしていきたい」と語った。

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部屋の一室。「ここを交流拠点としたい」と加藤。

 加藤のこの1年の目標は、総事業費を1億円規模にすることだ。民家でいうとおよそ800軒分の電気代だ。1年目から勝負の年となる。
 そしてこの先、美濃加茂での「地域電力」の仕組みが上手く回るようになれば自治体と連携した発電事業も視野に入れる。「いずれこのモデルを東海圏を中心としたエリアに広げていきたい」と、加藤はその夢を語る。「木曽三川電力を、地域内の人とお金の循環を考える社会企業グループにしていけたら」と。

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筆者も先日、加藤の新拠点を訪れた。自治体職員はじめ、加藤を慕う多くの人が訪れていた。独立後10年余りで出来た繋がりが加藤を支えている。困難も多く直面するとは思うが、多くの繋がりが加藤を支えている。地域のロールモデルたりうるよう、頑張ってもらいたい。木曽三川電力みのかもと、美濃加茂市の今後に注目である。

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