ウイスキー造りは難しいビジネス:その理由
ウイスキーの蒸留所は,随時新しく創業される所がある一方で,姿を消す所もあります.海外でも日本でもそうです.とても難しいビジネスだと思う点を挙げてみます.
1. 種々の規制を受けること
ウイスキーは食品ですから,変なものは作れません.また,アルコールは,大火災を起こしかねない危険物で,過去にも蒸留所の火災の例はあります.さらに,社会的な問題となりますので,紛失して出回るようなことがあってはなりません.酒税の管理も厳しいです.そのため,創業にはライセンスや認可が必要ですし,操業中も常々,関係当局からの規制や監視の下に置かれる窮屈なビジネスです.
2. 初期投資が大きいこと
糖化槽や発酵槽をはじめとして,特注の特殊な機器類をいくつも設置して連結しなければなりません.いわゆる装置産業です.しかも,機材の多くが輸入品です.最近は国産の蒸留器にも期待が集まっていますが,海外から技術者が泊まり込んで設置するようなこともあります.
3.場所が必要なこと
日本では,経営に必要な大抵のモノはカネで手に入ります.ただ,「土地」が重大な経営資源となることがよくあります.開業時に場所を自前で持っているか否かは,多くのビジネスにおいて,収支予測や事業計画に大きく影響します.
蒸留するための施設はそれほど広い場所を要しませんが,長い期間熟成させるための倉庫には広大な土地が必要です.これはスコットランドでも同様で,崖の下の矮小な場所にあるような蒸留所は,よその熟成庫に運んで熟成するという変なことになったりしています.
4. ランニングコストがかかること
原料の大麦麦芽や酵母は,基本的に輸入品です.また,生産するには相当な火力を要します.重要な素材である樽材も,たいていは輸入品です.先に,モノはカネで手に入ると書きましたが,水のほかは高くつくものはかりです.さらに,専門性を持った人材による労働集約的な仕事も欠かせません.
5. 時間がかかること
リードタイムが非常に長く,生産から出荷までに10年前後もかかるのがあたりまえの製品です.どこの蒸留所でも「ここでは熟成が早く進む」という話しを聞かされます.早く出荷したくて仕方がないのがよくわかります.
かつて,当初はリンゴジュースを売ってしのいでいた先人もおられましたが,いい状態になる以前のものを,記念品や限定品として少量ずつ出荷し,期待値を多く含んだ価格で販売するようなことも,一つの生き方とせざるを得ないでしょう.
6. どんなものができるかわからず,売りにくいこと
やってみないとどの程度のものができるのかわかりません.何年間も待っても,質の高いものはできないことがあり得ます.また,品質が良くても売れるとは限らないところがある商品で,消費者に上手く働きかけて印象を高めて販売する技術も求められます.
このように,ウイスキー蒸留所の経営には難しい要素が多々あります.昨今は,日本でも世界でも,このビジネスにチャレンジする人たちが次々に現れますが,かなりの資本と勇気が必要です.わたしは決してやりたいとは思いませんね.
(ひろかべ)
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