ジャパニーズウイスキーの個性や優位性は どんなところにあるか

近年,日本国内にも新しい蒸留所が次々に設立されています.日本でウイスキー造りが始まってから一世紀近く経ちますが,長くは国内の市場に向けた ごく限られた会社による取り組みでした.しかも90年代以降は消費量が落ちたため,生産が縮小されてしまっていました.ですから,国際化した市場の中で,広く多くの人が本格的なウイスキー造りに携わるようになったのは最近のことで,まだまだ新興国と言える状態でしょう.
そんな中で,今後どのようなウイスキーが出されてくるのか楽しみではありますが,日本ならではの特徴や魅力,つまりは国際競争力はどこに見いだせるのでしょうか.ちょっと答えが見つけにくいようで気になります.

日本では,ウイスキーの原料となる大麦麦芽も,酵母も,大半を輸入に頼っています.蒸留所を訪ねると,それらは大きなセメント袋のようなものに詰められて積み重ねられたりしていますね.なにより重要な樽材も,これはスコットランドでも同様ですが,国内ではいい材が採れず,輸入することになります.
蒸留所にもよりますが,発酵槽や蒸留器といった装置類も,多くが輸入品です.つまり,よその国でも日本と同じようなウイスキー造りができるということです.日本では,スコットランドの技法を踏襲していますが,それだけではせいぜい同等のものが,より高いコストで出来上がるに過ぎないでしょう.

ほかの生産国には,独自に工夫された特徴があります.
アイルランドでは,かつての大麦麦芽の入手難から,雑穀類を使った『ポットスチルウイスキー』が生まれています.その際には,巨大な蒸留器を使うなどして臭みの少ない軽い酒質を目指したことが,今のアイリッシュウイスキーの特徴になっています.
アメリカのウイスキーには,原料にとうもろこしを多用することに加え,一部にはサワーマッシュ法や,チャコールメローイング法といった特殊な製法を独自に編み出して採用しています.

日本の特徴として,水が挙げられることがあります.確かに水は原料の一つですし,急峻な地形から得られる軟水が安定して得られることは,日本の大きなメリットでしょう.しかし,外国でも良質の水はあるでしょう.目下評価の高い台湾の蒸留所が,良質の水に恵まれているとのことですし,オーストラリアの蒸留所は,きれいな海を渡ってきた雲が良質の水をもたらすのだと謳っています.
また,台湾の蒸留所には,優れた樽材の入手ルートがあり,それらを再加工する技術にも長けているといった特徴があります.

日本のウイスキーにも,水以外に,何か独特の製法が生まれてこないでしょうか.元来,日本の産業が得意としてきた,発明考案,創意工夫,カイゼン,技術革新などの発揮のしどころです.

昨年訪問したある蒸留所では,すでにお米を使ったウイスキー作りに取り組んでいるとのことでした.お米も,もちろん穀物です.日本酒や焼酎のように,日本固有の麹を使った糖化や発酵に取り組む蒸留所も現れてきています.こうした挑戦が,ジャパニーズウイスキーの特徴や優位性を産み出す可能性があると感じています.こうした日本独自のチャレンジをどんどんやってみて,失敗もあるでしょうが,日本のウイスキーならではの魅力を見い出していただければと思います.

いずれにせよ,何か特徴がないと,ジャパニーズウイスキーは,高価なばかりで質は,ま,フツーだという評判になりかねません.
最近では,中国にもウイスキーの蒸留所が設置されています.多くの蒸留所を所有する国際的な大企業の取り組みですので,物資は豊富でしょう.今は中国の人が日本のプレミアムボトルを高額で買ってくれているようですが,自国で上質のものが造られるようになると,事情も変わってくると思います.今のジャパニーズウイスキーは,期待もあって価格が高いだけに,評判を落とすと反動が大変だと思います.そうならなければいいと思います.

(ひろかべ)

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