Sports Washingの闇 講義ノート公開
2024年9月21日土曜日、貴方は何が起こったか記憶しているであろうか。
石川県能登半島地域を中心とする豪雨災害(能登半島豪雨)が発生した。同年1月1日の強い地震(能登半島地震 )で、甚大な被害を出し、社会基盤が壊滅した地域である。震災復旧が端緒についたところへ、今度は記録的大雨による浸水、土砂災害が襲った。その意味で、歴史的複合災害と言っても過言ではない。
地震予知は不可能に近い。一方、豪雨は前触れなく降ることはない。正確な予報に限界はあるものの、避難準備等を促す警戒情報発信、啓発報道は十分可能である。それはまた、報道機関、特にテレビ、ラジオに課せられた使命、責務に他ならない。
では、能登半島豪雨前日、9月20日金曜日のテレビ報道は、災害警戒を呼びかけたのか。不十分と言わざるをえない。前日は、野球の話題で持ち切り、狂騒ともいえる報道で埋め尽くされていたのだ。既に、日本海側で大雨が降り始めていた。それでも、テレビ各局は、人命、財産を脅かす気象よりも野球を優先して伝えた。
「スポーツイベントを使って、染みのついた評判を洗濯し、慢性的な問題から国内の一般大衆の注意をそらす」打算的行為をSports Washingと呼称する(Boykoff 2021)。祝祭性に満ちたスポーツによって、「不都合な真実」を隠蔽する行為だ。このSports Washingが、メディア空間に蔓延している。上記能登半島豪雨警戒報道の不足は、外形上、意図的とはみなし難い。それでも、気象災害啓発より野球を優先して報道した結果責任は免れない。
メディア・リテラシーの実践で、スポーツを俎上に載せることは難しい。オーディエンスの多くが、競技スポーツが有する祝祭性、そこから派生する一体感醸成効果に取り込まれているからだ。言い換えれば、権力によるスポーツの打算的利用は、容易に見破ることができない。
競技スポーツが過度な市場化、商業主義化へと突き進む今、Sports Washingの弊害は拡大し、深刻の度合いを深める。オーディエンスが、スポーツ報道に潜在する欺瞞性を察知するには何が必要か。筆者が担当する大学授業で用いる講義ノートを参考にしていただければ幸いである。
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