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パタゴニアの大自然(2) エル・カラファテから巨大な氷河へ 【世界旅行記102】

2013年1月31日(木)〜2月1日(金) プエルト・マドリン → エル・カラファテ(夜行バス)
2013年2月2日(土) エル・カラファテ

エル・カラファテまでは、プエルト・マドリンからバスを乗り継いで22時間を要した。これで、ブエノスアイレスからスタートし、本州をふたつ分ほど走り抜けたことになる。

エル・カラファテの町に着いて、あまりの寒さにわたしたちのテンションは一気に下がった。夫婦そろって、なかよく極度の寒がり、極度の冷え性なのである。夏を追いかけてきたはずが、ずいぶん寒いところへたどり着いてしまった。「南米の夏=暑い」という勝手なイメージは、いったい何だったのか。

考えてみれば寒いのは当然で、北半球では北へ行くほど寒くなるのと同様、南半球では南へ行けば行くほど寒くなる。エル・カラファテの2月の平均気温は、最高18度、最低8度という。東京の冬に比べたらじゅうぶん暖かいが、寒いところへ行く覚悟のなかったわたしには、じゅうぶん寒い。

もうすこし南へ下れば、世界最南端の町・ウシュアイアがひかえている。南極観光の拠点になっているくらいだから、ここより寒いに違いない。苦手な寒さに耐えてまで「世界最南端の町へ行った」という事実をつくっても仕方がない。わたしたちの南米南下は、これにて終了。あとは急いで引き返そう。

エル・カラファテは、何といっても氷河で有名な町だ。スペイン語で「氷河」を意味するロス・グラシアレスという、まさに氷河の宝庫のような国立公園がある。ここの氷河を見なければ、この町に来た意味がない。公園全体が世界自然遺産に指定されているくらいなのだ。エル・カラファテは氷河でなりたっている町だと言っても過言ではない。そう豪語しているわたしは、この氷河の存在を、南米に来てから妻に聞かされてはじめて知った次第。

とにかくそういうわけで、この町からは氷河を見るたくさんのツアーが出ている。とくに人気なのがミニトレッキングツアーで、巨大な氷河のうえを歩けるらしい。興味は湧かないが、氷河の氷でウイスキーが飲めるらしい。しかし、この町に着いた時点で「寒い」しか言わなくなったわたしには、これ以上の寒さはとうてい考えられない。みずから風邪をひきに出かけるようなものだ。

そこで選んだのが、クルーズで氷河をめぐるツアー。いちばん有名なペリト・モレノ氷河のほかに、最大規模をほこるウプサラ氷河や、氷河の高さがいちばんのスペガッツィーニ氷河を見てまわれる。なんでもぜんぶ見たい派のわたしには、ぴったりのツアーだ。なによりクルーズに乗りながら氷河を眺められる点が魅力的である。少々値は張るが、背に腹はかえられない。投票の結果、満場一致でクルーズ案が採決された(有効投票数・2)。

そして今日、わたしは万全を期してツアーに参加した。下半身は、まずヒートテックタイツ(ユニクロ)、その上に長ズボン、その上に防水パンツと、三重に着込んだ。上半身は、ランニングシャツ、半袖Tシャツ、長袖ヒートッテック(ユニクロ)、長袖シャツ、カーディガン(ユニクロ)、ウルトラライトダウン(ユニクロ)、そして防水ウインドパーカーの7枚重ね。ようは、わたしは持っている洋服(とくにユニクロのもの)を、ほぼぜんぶ着込んで出かけた。いまのわたしの持ち物では、これ以上の努力は不可能だ。

これだけ何重にも着込めば、どんな温度にもきめ細かく対応できる。実際、クルーズに乗り込んだら思いのほか暖かくて、一気に4枚も脱いだ。暑くて汗が出そうだった。しかし、そとのデッキへ出ると強風が吹きつけてきて、ぜんぶ着込んだ状態でも寒さが身にこたえた。だんだん手がかじかんでくるので、長時間は立っていられない。けっこうな勢いで進むクルーズの前面から、しぶきが吹き上げてくることだってある。

わたしは、よこでモコモコの厚手コートを羽織り、笑顔で記念撮影しているオバサマたちが心底うらやましかった。着ている服もさることながら、体についた肉の量が桁違いなのだ。土台が違いすぎて、もはや比較対象にすらならない。

そんなことより肝心の氷河だが、その迫力には想像以上に圧倒された。太陽の光で、透明な氷が青々と見える。ここは実際に写真を見てもらうしかない。これまで、なるべく写真に頼らず、文章で情景のすばらしさを表現しようと努めてきたが、この氷河に限っては写真で迫力を感じてもらうのがいちばんだと思う。文章よりも写真のほうが伝わることもある。写真の力は偉大だ。

実のところを言うと、前置きが長くなりすぎて、氷河についてこれ以上詳述するのがおっくうになってしまった。「ペリト・モレノ氷河」と打ってグーグル検索すれば、詳細な説明がたくさん出てくるだろう。結論としては、とにかくクルーズツアーでも寒かった。写真を撮るために無理をして長時間デッキに出ていたせいで、わたしの身体はすっかり冷えきってしまった。いまはただ、はやく暖かいところへ行きたい。

泊まっているドミトリーの部屋がくさいので、明日は別の宿へ移ることにした。こんなことを言っては差別的だと非難されるかもしれないが、欧米人(あくまでも漠然と使っている)の体臭はけっこうきつい。これはインドのアシュラム滞在中に実感したことだが、肉ばかり食べている人は、けっこう体臭がする。おそらく多くの日本人が勝手に持っているイメージとは違い、インド人はほとんど体臭がしない。これは、ほとんどがベジタリアンだからだとにらんでいる。

なぜこんなに体臭の話をするかというと、ドミトリーでいろんな外国人と一緒に寝泊まりしていると、いろいろと敏感になるのである。欧米人独特のにおいというやつが確実にある。逆に彼らからしたら、アジア人独特のにおいというものを感じているかもしれない。悲惨なのは、夜にシャワーを浴びる習慣が彼らにはないことである。1日汗をかいた身体のまま、ベッドにはいるのだ。しかも、あろうことかパンツ一丁で寝たりする。これでは悪しきにおいも倍増するというものだ。

腹いせにもうひとつ言うと、彼らはとにかく荷物を散らかす。ドミトリーの部屋は、いつも彼らの荷物で散らかっている。よけいにいろんなにおいが混じる。全員がそうだとは言わないが、多くの確率でバックパッカーというのは、おなじような行動を取る。

そういうわけで、いま泊まっているドミトリーは狭いうえに散らかっていて、しかもにおいがきついから、明日は別の宿へ移る。少々値は張るが、ダブルルームを予約した。背に腹はかえられない。こうしてわたしたちの旅は、どんどん出費がかさんでいく。

公園内で最大規模をほこるウプサラ氷河(Glaciar Upsala)
高さでいちばんをほこるスペガッツィーニ氷河(Glaciar Spegazzini)
大崩落で有名ないちばん人気のペリト・モレノ氷河(Glacier Perito Moreno)
エル・カラファテの街並み(メインストリート)

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Travelife Log 2012-2013
世界一周の旅に出てから12年。十二支ひとまわりの節目を迎えた今年、当時の冒険や感動をみなさんに共有したいという思いから、過去のブログを再発信することにしました。12年前の今日、わたしはどんな場所にいて、何を感じていたのか? リアルタイムで今日のつぶやきを記しながら、タイムレスな旅の一コマをお届けします。


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