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遺跡で栄える町(下) アンコール・ワット遺跡群 【世界旅行記074】

2012年12月7日(金) プノンペン

以前も書いたが、遺跡というものにそこまで興味のないわたしは、正直言ってアンコール・ワットを見ても見なくてもどちらでもよかった。「せっかく近くまで来たから見ておこう」という感じである。(以前の記事:遺跡に対する感度の鈍さ ― エローラとアジャンタ石窟群を見て

それでも、アンコール・ワットはペルーのマチュ・ピチュと並んで日本人に大人気の遺跡で、とにかくみなが大絶賛するものだから、「なにがいったいそんなに人々を惹きつけるのか、実際に見て確かめてやろう」という気持ちはあった。というのも、写真だけ見ていても、わたしにはいまひとつよさがわからないのである。困ったものだ。これは、実際に行った人にしかわからない空気感というか、この遺跡にしか醸し出せない独特の雰囲気でもあるのだろう、と思った。

結論から言うと、朝日をバックに映えるアンコール・ワットは、遺跡に惹かれないわたしでも、さすがに美しいと感じさせるものであった。これを見ていなければ、アンコール・ワットに対するわたしのイメージは、だいぶ違ったものになっただろうと思う。

アンコール・ワットへは、トゥクトゥクをチャーターして向かった。朝5時にドライバーが宿まで迎えにきて、まだ暗い夜道を走り抜けていく。道はおどろくほど整備されている。ほかのトゥクトゥクも観光客を乗せ、いっせいに遺跡を目指す。

20分ほどで遺跡の近くに到着したが、まだ薄暗く、あたりの様子はわからない。トゥクトゥクを降りて人並みに沿って歩いていると、やがて遠くに3本の塔が、ぼんやりと見えてきた。池の前に人垣ができていて、ここで日の出を待つ。みな、朝日で遺跡が池に反射して映るのを、カメラ片手に待ち構えているのである。

観客が揃うのを待ち構えていたかのように、徐々に光が射し込んできた。長方形の遺跡は西が正門になっているので、ちょうど太陽が遺跡の裏から上ってくるように見える。空はだんだんと青くなり、遺跡の縁はオレンジ色に輝く。やがて夕日のように空が赤く焦げて、そうかと思うとまた青い空へと戻っていった。

その間、小一時間。遺跡と朝日の競演は、まるで野外劇場を見ているかのように観客を沸かせた。それでも太陽がぜんぶ顔を出してしまったら、観客は蜘蛛の子を散らすように去り、にくい演出をした立役者は一気に邪魔者になってしまった。乾季とは言え、カンボジアの12月は暑い。現地の人は寒い寒いと言って長袖を着ているが、観光客には充分暑い。

「遺跡は環境とともにある」ということを、これほど強く感じたのははじめてだった。暗闇のなか、ぼうっと浮かび上がってくる遺跡は幻想的で、「そこに巨大ななにかがある」という漠然とした期待を抱かせる。はっきり見えないことが、かえって想像力をかきたてるのである。

朝日を見たあと、アンコール・ワットをはじめ、アンコール・トム、タ・ケオ、タ・プロームなどの遺跡を見てまわったが、この風景に勝る感動はなかった。とにかく蒸し暑くて、クタクタになるまで歩きまわったという印象のほうが、どうしても上回ってしまうのである。いまよりもっと暑い夏に訪れていたら、わたしは途中でギブアップしていたに違いない。

それでも、これまで世界の各地で見てきた遺跡に比べると、圧倒するものがあったのは事実である。その主因は、遺跡のスケール感であって、たしかに多くの人が言うように、自分が「遺跡の中にいる」という感覚は強く感じられた。

アンコール・ワットは、東西・南北ともに1キロ以上にわたる広大な敷地に建ち、周囲を幅広な濠で囲まれ、敷地内は緑で覆われている。皇居のようなイメージの、きれいな場所である。遺跡自体はきわめて立体的で、それゆえ、水平方向にも垂直方向にも奥行きが感じられる。それで、遺跡のなかを歩いていると、迷宮に迷い込んだような感覚になる。長い年月をかけて巨木が遺跡に絡みつき、「自然のなかの遺跡」というイメージを強くさせる。ゲーム好きなら、ゲームのなかの世界に入り込んだような錯覚に陥るらしい。わたしはゲームをまったくやらないので、そういう感覚はわからない。ジブリ好きには、宮崎駿の描く世界がそこに広がっていると感じられるらしい。とにかく、そういう現実離れした空間にいる心地を多くの人が感じる。それで、どうやら人気があるらしいことは、実際に行ってみて、やっとなんとなくわかった。

わたしたちは1日券を買って、これらの遺跡群を小回りにざっと見ただけだったが、なかには3日券を使って、じっくり見てまわる人も多いらしい。シェムリアップから少し遠出すると、ほかにも様々な遺跡が残っているというから、遺跡好きにはたまらない町であるに違いない。もう一度見たいという人も多いと聞く。わたしは、1回見たから、もう充分である。

アンコール・ワット朝日鑑賞会の舞台裏。

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Travelife Log 2012-2013
世界一周の旅に出てから12年。十二支ひとまわりの節目を迎えた今年、当時の冒険や感動をみなさんに共有したいという思いから、過去のブログを再発信することにしました。12年前の今日、わたしはどんな場所にいて、何を感じていたのか? リアルタイムで今日のつぶやきを記しながら、タイムレスな旅の一コマをお届けします。


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