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情報の民主化がもたらしたオープンイノベーション ~学びあうオープンイノベーション(4)~

 そもそもオープンイノベーションとは何なのでしょうか?
 他者(他企業や大学)との共同研究開発は、従来から行われてきました。それとオープンイノベーションは何が違うのでしょうか?
 歴史的背景から解説していきます。

インターネット時代の到来
 1995年11月、米マイクロソフト社から画期的なOS「Windows95」が発売されました。このWindows95が、それまでのWinodws3.1と異なったのは、「インターネット接続機能」を標準搭載したところでした。加えて、パソコンの操作性が向上したことにより、一般家庭にパソコンが広く普及し、インターネットを利用する人の数が爆発的に増えました。つまり、このWindows95の発売を境にインターネット時代が幕開けたといえるのです。

情報の民主化
 このインターネットがもたらした歴史的価値が「情報の民主化」といえます。情報の民主化とは、それまで特定の業界・業種で閉じられていた情報がインターネットを通じて広く開放されるようになり、それまでアクセスできなかった情報に、多くの人が手軽にアクセスできるようになったのです。
 インターネットがある現代の我々は、自分のデスクに座りながら、あらゆる業界の企業情報にアクセスできます。将来の戦略に関わるIR情報や、研究開発成果としての技報や特許といった技術情報を無料で閲覧することができます。インターネットが無かった時代には考えられないことでした。
 これによって、特定の業界・業種で閉じられていた技術が、業界・業種の垣根を越えて活用することが可能になったのです。

開かれたモノづくり
 オープンイノベーションとは、従来から取引のある他社とのモノづくりではなく、従来取引のなかった異業種企業とのモノづくりを意味します。つまり、閉じられた世界のモノづくりではなく、広い世界と繋がる“開かれたモノづくり”を意味します。
 この「開かれたモノづくり」の価値は、開発メンバーの技術に対する“目線が異なる”ところにあります。
 例えば、金属を硬くする硬化処理技術があるとします。この硬化処理技術の専門家に、この技術の価値を聴くと「耐摩耗性の向上」と言います。「耐摩耗性の向上」と聴いて、皆さんはどのような用途をイメージできるでしょうか?
 これを異業種企業の技術者が“異なる目線”で、この硬化処理技術を観察すると、「金属部品に傷がつきにくくなる」という価値を見出せるのです。そう解釈すると、「傷がつくのが嫌だ」という用途で活かすことができます。同じ技術者でも異分野の人だと、見ている角度が全く違うのです。

オープンイノベーションの価値は“異なる目線”の融合
 下図はハーバードビジネススクールの研究論文(※1)からの引用です。この図は、共同研究開発プロジェクトにおけるメンバーの専門性が共通しているかどうか(横軸:左ほど共通しており右ほど多様性が高い)と、その成果のイノベーション革新度(縦軸:上にいくほど革新的成果で下に行くほど失敗成果)をプロットしたものです。
 点が右にいくほどばらつき、Averageは右にいくほど下がっています。これは、メンバーの専門性が離れている(多様性が高い)ほど失敗も多いが革新的イノベーションが生まれるケースがある一方で、メンバーの専門性が共通していると失敗は少ないが革新的イノベーションは生まれないというものです。
 現代のビジネスでは、収益性の高い差別化されたモノづくりが求められています。一つの会社の中だけで革新的なアイデアを出すのには限界があります。こうした広い世界と繋がる「開かれたモノづくり」によって革新的イノベーションを生み出すことが技術者に求められています。

「Perfecting Cross-Pollination」by Lee Flemingより引用

オープンイノベーションの課題
 “開かれたモノづくり”であるオープンイノベーションの課題は、上図に示した通りメンバーの専門性が離れている(多様性が高い)ほどaverageが下がっているところにあります。
 メンバーの専門性が離れていると、「阿吽の呼吸」が無いのです。「言葉が通じない」「時間間隔が異なる」といったコミュニケーションにおいて問題が生じるケースが多いのです。
 この課題を克服する方策を著書「学びあうオープンイノベーション」で提唱しました。それは、また次の機会で書きたいと思います。
 今回は、従来からある共同研究開発とオープンイノベーションの違いを「情報の民主化」という歴史的背景からご理解頂ければと思います。

※1:「学びあうオープンイノベーション」~新しいビジネスを導く“テクノロジー・コラボ術”~」2024年(日本経済新聞出版 日経BP)図1-1より(原出典:「Perfecting Cross-Pollination」by Lee Fleming)

■「学びあうオープンイノベーション」~新しいビジネスを導く“テクノロジー・コラボ術”~」2024年(日本経済新聞出版 日経BP)

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